うたかたの街、そこは小さな村で、誰もが知る恐ろしい伝説があった。
この村には、「逆さまの霊」と呼ばれる存在がいると噂されていた。
逆さまに見える、逆さまに動く、そして逆さまに生きる、その霊はかつてこの村で命を落とした青年、直樹の霊だと言われていた。
直樹は普段から目立たない青年で、親友の健二と遊びながら、退屈な日々を送っていた。
ある日、直樹は村の外れにある古びた神社の参道を一人で歩いていた。
すると、その神社の境内で不思議な雰囲気を感じ取り、興味をそそられた。
境内には大きな木が立っていて、その根元には古い石碑があった。
直樹は記されている文を読み始めると、急に強い風が吹き、木の葉が彼を取り囲んだ。
その瞬間、石碑から直樹は異様な声を聞いた。
「死んだ者の逆さまの生は、思いを逆さまにする」。
その言葉を聞いた直樹は興味を抱くと同時に、ぞっとした。
直樹はその場を離れようとしたが、体が逆方向に引き寄せられ、まるで操り人形のように神社の奥へと進んでいった。
気がつくと、彼は逆さまの景色に囲まれていた。
地面は空に、空は地面に、音も逆さまに聞こえる。
驚きと恐怖が直樹の心を満たし、逃げ出さなければならないと思ったが、手足が逆さまに自由を奪われているかのように動かなかった。
その時、直樹は身の回りに他の霊が存在することに気がついた。
それは、彼と同じように逆さまの世界に囚われた霊たちだった。
彼らは直樹に向かって語りかけた。
「ここは逆さまの世界。助けが必要だ。あなたの思いを逆さまにすることで、私たちは解放されるかもしれない」
この声は直樹の心に響いた。
「思いを逆さまにする」ということが何を意味するのか直樹には分からなかった。
しかし、彼が抱えていた悲しみや未練を思い返すと、その思いを逆さまにすることが、彼自身の解放に繋がるかもしれないと感じた。
直樹は自分を見つめ直した。
こちらの世界では、感情が全て逆さまになっている。
彼は、他人に優しくしたいと思いつつ、自分のことばかり考えていたことに気がついた。
親友の健二に伝えられなかった思い、誰かを助けたいという気持ち、それらを逆さまにしてみることで、きっと新しい生き方が見えてくるだろうと直樹は思った。
心の深い部分から浮かび上がる「逆さま」の感情。
それを掴み取った直樹は、精一杯叫んだ。
「自分を大切にすることが大事だ。私がみんなの思いを受け止める!」
その瞬間、周囲の霊たちの姿がどんどん透明になり、彼をぐるりと囲んでいた逆さまの風景が崩れていった。
まるで彼らの思いを受け入れることで、解放されていくようだった。
そして、直樹自身もまた、拘束から逃れ始めた。
目を閉じ、心の底からその思いを叫んでいました。
再び開いたとき、彼は以前の景色が普通に戻り、神社の前に立っていた。
彼は直感的に、霊たちが助けを求めていた理由を理解し、自らの生き方を見つめ直すことを決意した。
今までの生は、彼にとって逆さまに感じていた。
直樹はこの経験を通じ、逆さまに与えられた感情を糧に、正しい生を歩んでいくことを誓った。
再び村に戻った直樹は、自らの思いを胸に、もう一度新しい生活を始めることにした。
彼の心に宿る「逆さまの霊の思い」が、彼を強くする力となるのだから。