佐藤浩二は、東京の郊外にある小さな町に住んでいた。
彼は身近なものに恐怖を感じることが少なく、むしろ日常にこそほんの少しの不気味さを求めていた。
そんな彼が、ある日古い図書館で見つけた本をきっかけに、恐怖の存在に直面することになる。
その本は、町には昔から伝わる数々の怪談が載っているもので、特に「逆さまの形」という話が目を引いた。
そこには、「気をつけなければ影の形が逆さまに現れ、その形に触れた者は呪われる」と書かれていた。
浩二は興味を持ち、その話の詳細を知るために何度も図書館に足を運ぶようになった。
数日後、浩二はいつものように自宅へ向かう途中、友人の高橋とばったり会った。
「久しぶり!最近何か面白いことあった?」高橋が聞くと、浩二は図書館で読み漁っていた怪談のことを話した。
高橋は笑って「そんなのただの噂だよ、信じる必要なんてない」と言ったが、浩二の心にはその言葉が引っかかっていた。
新月の夜、浩二はふとした好奇心から、逆さまの形の伝説を試してみようと決心した。
彼は自宅の裏庭で、月明かりも届かない暗闇の中、自分の影を見つめていた。
周囲は静寂に包まれ、月の光が全くないその場所は、妙に不気味だった。
彼は心臓の鼓動が高鳴るのを感じながら、影に手を伸ばした。
すると、浩二の影がゆっくりと逆さまに変わり始めた。
その形は、まるで誰かの顔が見えたかのように感じられた。
「おい、やめろ…」と彼は呟いたが、その瞬間、影は彼の手を掴んできた。
予想外な展開に彼はパニックになり、全力でその影から逃げようとしたが、足がすくむような感覚に襲われる。
まるで、何かに憑かれたかのように動けなくなってしまった。
影は浩二に向かって、じわじわと迫ってきた。
その瞬間、耳元で低い声が聞こえた。
「触れてはいけない。私は逆さまの形だ」と。
その声は、彼の体を冷たい恐怖に包み込んでいった。
彼は必死に心の中で祈り、逆さまの影から逃げようと試みたが、どんどん引き寄せられていく。
彼は恐怖に震えながら、まるで薄暗いトンネルに引き込まれるような感覚を味わった。
彼の視界は急に暗くなり、目の前には逆さまになった自分の姿と、そこに映り込む異様な面影が映った。
「これが呪いの正体なのか…?」彼は恐れに駆られた。
しかし、なぜかその面影が心地よいと感じる自分もいた。
やがて浩二は、自らの影に逆らうことができなくなり、ついには意識を失ってしまった。
気がつくと、彼は実際には裏庭での出来事を体験していなかった。
彼は自宅のベッドの上で目を覚まし、周囲が普段通りの光景であることに安心するも、その日はもう二度と裏庭には行こうとは思えなかった。
だが、その後も浩二は影が逆さまになる現象を夢に見るようになった。
夢の中でいつも同じ声が聞こえてきた。
「あなたはもう私のものだ」と。
不安に駆られた彼は、避けるように生活を続けたが、次第に夜になると影が動くことを感じるようになる。
その影は時として逆さまになり、また時には浩二と一体化していた。
日々、浩二はその現象に怯えるあまり、街の外れを避けて過ごし続けた。
しかし、彼が見た影の現象は、彼を恐れさせるだけでは終わらなかった。
周囲の人たちもその影に引き寄せられ、いつのまにか直面した呪いに囚われていくこととなった。
彼は一人ではない、その影は確実に広がっていったのだ。
反響が広がるにつれ、浩二は理解を得られずに孤立していく。
日常生活を送ることが難しくなり、影の恐怖が彼を蝕んでいく。
果たして浩二は、逆さまの形に呪われることなく、平穏な生活を取り戻すことができるのだろうか。
影は静かに、彼を待ち続けていた。