彼の名前は翔太。
ある晩、友人たちと迷い込んだ古い廃校。
そこは、村の外れに位置しており、地元では忌まわしい場所として知られていた。
数年前に事故が起こり、そこで多くの生徒が命を落としたという噂が絶えなかった。
彼らは最初こそ興味本位で肝試しを楽しむつもりだったが、その影響は彼らの心の中に徐々に忍び寄っていた。
廃校の校舎に入ると、薄暗い廊下が続き、古びた壁には亀裂が走っていた。
その時、友人の一人が不意に声を上げた。
「見て、あの壁に何か書いてある!」翔太が近づくと、朽ちた壁に不気味な文字が書かれているのを発見した。
「逃げろ」の一言が、彼の心に不安を植え付けた。
仲間たちは笑い合ったが、翔太だけは妙な違和感を覚えていた。
廊下の奥へ進むにつれ、陰鬱な雰囲気が彼らにのしかかってきた。
「やっぱり、帰ろうか?」と翔太が言うと、友人たちは「まだ何も見てないじゃん、もっと奥へ行こうよ!」とそろって抗った。
翔太は怯えながらも、友人たちに流されるように後を追った。
ちらほらと壁に現れる奇妙な文字や図形。
彼らが進むにつれ、次第にそれがはっきりと看取できるようになり、叫び声や泣き声を模したような音がどこからともなく響いた。
それを不気味に思い始めていたその時、彼の目の前の壁に映った影が、彼を魅了するかのように動き、翔太の心を捉えた。
その瞬間、彼の脳裏に過去の事故の記憶が鮮明に蘇った。
彼らは教室に閉じ込められ、救助を待つ間、どれだけ恐怖と絶望を味わったのか。
翔太の心の中に、抗う気持ちが芽生えた。
「こんなところ、早く出なければ!」一歩後ろへ下がると、壁が徐々に近づいてくるような錯覚を覚えた。
仲間たちもそのことに気づき始め、パニックになりながら出口を探し始めた。
「待って、こっちだ!」翔太の呼びかけに、友人たちが一斉に振り返ったが、その時、壁から出てきたかのような何かが彼らを包み込み、制圧した。
「やめろ!逃げろ!」翔太は必死に叫んだが、彼の声はすぐに消えた。
仲間たちの足はもつれ、恐怖に陥った彼らは、互いに助け合おうとしたが、その動きは無駄に終わった。
目の前の壁が、彼らを拒絶するかのように押し迫り、ついにはそれが生きた壁のような存在感を持っていることに翔太は気づいた。
そして、彼はその現象が自分たちに何を求めているのかを感じ取った。
逃げられぬ運命と、この壁に対する抗いがどれほど困難であるかを。
翔太は再び叫び、もう一度逃げる意思を強くした。
「絶対に負けない!」仲間たちに手を差し伸べ、彼らを持ち上げ、共に走り出した。
廃校の出口はまるで彼らを拒んでいるかのように思えたが、翔太は果敢に突き進んだ。
その瞬間、彼は何かを見る。
彼らの努力に反して、壁が崩れていくように思えた。
「今だ!」翔太は友人たちに叫び、出口を目指して全力で駆け抜けた。
崩落した壁の音が耳に響き、彼は生き延びたことを実感した。
ようやく外に出ると、胸の鼓動が高まり、彼は振り返った。
廃校が静まり返る中、翔太は一つの思いを抱いた。
抗うことで、運命に飲まれることはなかった。
だが、彼らの背後に迫る影は決して消え去ることはないのだと。
彼が恐れていたもの、過去の悲劇は、どこかでしっかりと根を下ろしていることを忘れはしなかった。