「迷路の足跡」

深い霧が立ち込めた夜、静まり返った迷路のような林の中を、美咲は足早に進んでいた。
彼女は友人たちと待ち合わせの場所に向かっていたのだが、いつの間にか道に迷ってしまった。
緊張感がつきまとう。
周囲の木々は彼女を包み込み、漠然とした不安が彼女の心を締め付けている。

「こんなところで迷うなんて…」美咲は自分の足元を見つめながらつぶやいた。
暗がりの中、足を取られないように注意深く歩かなければ、何かに躓いて転んでしまうかもしれないという恐れが頭をよぎる。
足元には小さな石や木の根が無数にあった。
彼女は一歩一歩、慎重に進んだ。

ふと、何かの気配を感じた。
振り返ると、誰もいない。
しかし、その瞬間、耳元で低い声が囁いた。
「逃げろ…」美咲の心臓が一瞬凍りつく。
何かが自分に迫っているかのような恐怖に襲われた。
声の主は見えないが、明らかに彼女を警告している。

彼女はそのまま進むことができず、恐る恐る林を歩き続けた。
やがて、林の奥深くへと進むにつれて、その声は次第に力を増していく。
「逃げろ…早く…」どこからともなく聞こえる声が足元を舞い、幻想的な響きを持っていた。
美咲は立ち止まり、真剣に考えた。
逃げるべきか、進み続けるべきか。

迷路のような林の中で、何かが彼女を見ている気配に怯えながら、彼女は再び足を前に進めた。
しかし、次の瞬間、彼女は思わず足を止めた。
牢獄のような木々の隙間から、誰かがこちらを見ているのが見えた。
真っ白な顔、長い黒髪、そしてそこには異様な程の空虚感が漂っている。

「助けて…私の足を…」その女性は美咲に向かって手を伸ばす。
視線が彼女の足元に向かい、そこには異様に変形した足があった。
彼女は一歩一歩もがき、足を引きずるようにして脱出を試みている。
美咲はその姿に恐怖を感じ、自分がそのような運命をたどってしまうのではないかという思いが胸を締め付けた。

「足を割られた…私の魂が…この迷路に残される…」女の声は悲しげで、彼女の目の奥には絶望が映し出されていた。
美咲はその言葉に思わず引き寄せられ、その場を離れられなくなってしまった。
彼女は手を差し伸べようとしたが、恐怖が彼女を縛りつけている。

「逃げなければ…私と同じ運命を辿ることになる…」その瞬間、美咲は決心した。
迷路から逃げるためには、恐れを振り払わなければならない。
美咲は目を閉じ、その声の主に背を向け、全力で走り出した。
地面を蹴り、足を進める。
後ろを振り返る余裕はなかった。

その後、どれだけの時間が経ったのか、美咲はようやく林の外に出ることができた。
心臓が爆発しそうなほどに早鐘を打っていた。
振り返ると、迷路は幻想的な霧に包まれており、彼女の叫び声は消え、静けさが広がっている。

その後、美咲は安全な場所に辿り着き、友人たちと無事合流した。
だが彼女の心には、あの女性の顔が焼き付いて離れなかった。
彼女は決して忘れられない、逃げるべき恐怖の記憶として心の奥深くに刻まれていた。
あの女性の声が、今も心の中で響いているように感じながら、美咲は生きることへの感謝を掴むのだった。

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