深夜、静まり返った田舎道を、一人の男が歩いていた。
彼の名前は陽一。
特に目的もなく、ただ何となく散歩をしていたのだが、次第に道の先が暗く、そして恐ろしい雰囲気を纏い始めていた。
道の脇には、背の高い木々が生い茂り、月明かりすらも遮っている。
周囲は静寂に包まれており、陽一の足音だけが響いていた。
そのとき、ふと、彼は何かの気配を感じた。
振り返ると、すぐ後ろには誰もいない。
ただの静寂が、彼の背中をじわじわと押してくる。
「大丈夫だ、こんな道を一人で歩くなんて慣れてるさ」と自分に言い聞かせながら、陽一は歩みを進めた。
道の先に青白い光が見えた。
近くに明かりがあるのだろうか。
好奇心から、その光を目指すことにした。
近づくにつれて、その光は次第に強くなり、やがてそれが焦げたような煙と共に不気味な赤い炎であることが判明した。
目の前には、小さな火が燃えているが、その炎はまるで彼を呼んでいるかのように揺れ動いていた。
その周りには黒い影がうすぼんやりと浮かんでいる。
陽一はその光景に足を止め、恐怖と好奇心の間で揺れ動く。
「これはなんだ…」と彼は思わず呟いた。
その時、火の中から一人の女性の声が聞こえた。
「ずっと迷っているの…助けて…」
陽一は驚愕し、さらにその場から動けなくなった。
炎の中に人がいるだなんて常識では考えられないことだ。
彼は目を凝らし、火の中にくっきりとした影を見据えた。
女性の顔が浮かび上がり、彼を見つめている。
彼女の目には何か切実なものが宿っていた。
「私は地。それをずっと探している。だからここにいるの…でも、道を見失ってしまって。あなたも迷ったの?」その声は弱々しく、彼に何かを訴えかけている。
陽一は心の底から彼女を助けたくなった。
しかし、どうすれば良いのか全く分からない。
火は消えかけており、彼女の姿も次第に薄れていく。
「あなたがここにいる理由を教えて。私がどうにかできるかもしれない…」彼は勇気を振り絞って叫んだ。
その瞬間、火が一際大きく燃え上がった。
地の女性は悲しげに微笑み、「友を失い、ここに縛られているの。私を忘れて、彼を救って…」と言い残した。
陽一はその言葉の意味を考えた。
彼女は何か大切なものを失ったのだろうか。
そして、彼女の運命を変えるためには、何をしなければならないのか。
自分の中で掻き乱される思いに耐えきれず、彼は心に決めた。
彼女の迷いが終わる手助けをするのだ。
陽一は彼女の影に向かって手を伸ばし、「あなたの友を探す!必ず見つけてみせる!」と叫んだ。
すると、周囲の空気が変わり、火の勢いが和らいだ。
彼女の姿はすっと消えてしまったが、陽一には何かが残った。
彼は彼女の言葉が指し示すものを感じ取ることができた。
道を進むほどに輪を描くように、彼は自分自身の過去や間違った選択を思い返し始めた。
陽一は人々とのつながりや、友との絆を思い起こし、彼女の思いを実現するための行動を決意した。
彼は道を再び歩き出し、彼女の記憶を大切にしながら、前に進んでいく。
今度は、余計な迷いを抱えずに。
だが彼の心には、いつまでも彼女の声が響いていた。
「迷わず、進んで…信じて。」