迷の中には、古くから伝わる人気のない神社が存在していた。
その神社には、妖と呼ばれる存在が宿ると言われており、訪れた者は必ずその影に引き込まれるという噂があった。
特に、深夜になるとその恐怖は増幅し、誰もが近寄らなくなる場所だった。
ある夜、太田翔太は好奇心からその神社へ足を運ぶことにした。
友人たちから話を聞いていたが、自分の目で確かめたくなったのだ。
月明かりの下、迷を進む彼の周りには静寂が広がっていた。
まるで時間が止まったかのように、周囲の音が消え、心臓の鼓動だけが響く。
神社に着くと、あたりは不気味な霧に包まれていた。
翔太は一瞬ためらったが、さらに奥へ進む勇気を奮い立たせ、神社の鳥居をくぐった。
そこには古びた社があり、まるで何かを待ち受けているかのような不気味な雰囲気が漂っていた。
彼が社に近づくと、ふと冷たい風が吹き抜ける。
その瞬間、彼の目の前に「妖」と名乗る女の姿が現れた。
彼女の肌は白く、目は深い闇を湛えている。
翔太は驚きと同時に吸い寄せられるように彼女に近づいた。
「私はこの迷の守り手、妖だ」と彼女は静かに告げた。
「あなたは、何を求めてここに来たの?」その問いが翔太の心に響いた。
彼は自分の答えを探しながら口を開いた。
「ただ、噂の真相を知りたかっただけです。」
妖は微笑み、妖艶な声で「この迷には、かつて失われた希望が隠されている」と語った。
「しかし、辿り着くことができる者は少なく、ほとんどの者が迷いに飲まれてしまう。あなたは、希望を見つけることができるのか?」
翔太はその言葉に心を惹かれた。
彼は自分が特別な運命を持っているかのような錯覚に陥った。
しかし、その時、辺りが急に暗くなり、霧が濃くなっていくのを感じた。
彼は不安になりながらも、妖の誘いに従い、迷の奥へと進んだ。
すると視界がゆらぎ、現実とは異なる風景が広がった。
翔太の周囲には、彼の知っている人々の顔が浮かび上がった。
それは、彼が人生の中で大切に思っていた人たちだったが、彼らは過去の記憶の中でしか生きていない。
幻影となった彼らは、「翔太、助けて!」と叫び、手を差し伸べてきた。
「どうして?これは、なんだ…」翔太は混乱し、目の前の情景から目を逸らした。
その瞬間、妖の声が響いた。
「彼らの思いは、あなたが一緒にいることを求めている。しかし、あなたがその期待に応えられなかった時、彼らは消えてしまうのよ。」
翔太はその言葉に強烈な恐怖を感じた。
彼は過去の記憶に引き戻され、自分の無力さに苦しんだ。
目の前の妖は、翔太の心の底にある恐怖をさらけ出させながら、彼に試練を与えていた。
彼は逃げたかったが、足がすくんで動けない。
「さあ、あなたが選ぶ番よ。留まるのか、去るのか。」妖の言葉は、まるで彼の心を試すように響いた。
翔太は自分の思いを込めて、友人たちの記憶を振り払い、迷を抜け出そうと決意した。
「助けてあげられないかもしれないけど、私は前に進む!」と叫んだ。
その瞬間、彼の目の前に現れた霧が一気に晴れ、彼は迷から解放された。
妖はその背中を見つめていた。
翔太が神社を後にする時、彼はもう二度と恐れを抱かないと誓った。
彼は迷の中で、希望の光を見つけたのだった。