その町には、今は使われていない古い着物屋があった。
数十年前に経営をしていたというその店は、ある悲しい出来事で閉店を余儀なくされたという。
着物屋の主人であった中村紗恵は、若い女性に仕立てた美しい着物を売ることに情熱を注いでいたが、ある日、彼女は行方不明になってしまった。
町の人々の間では、その話がほんの少しずつ広まり、薄暗い alley での噂話となった。
彼女が失踪した日、実は二人の若い女性がその店に訪れていたと伝えられていた。
彼女たちは道に迷い、紗恵に道案内をお願いしたのだとか。
しかし、その後、二人とも行方不明になったのだ。
町では、道に迷った若者たちが次々と失踪する現象が続き、町は次第に恐怖に包まれていった。
人々はその場所を「失われた着」と呼ぶようになり、近づくことを忌み嫌った。
しかし、一方で、その失踪の原因を探ろうとする者もいた。
特に、着物に興味を持つ若者たちの中には、紗恵の美しい着物をどうしても見たくて、恐れを無視して探検に来る者もいた。
ある夜、好奇心旺盛な少年、佐藤健太が友人たちと共に「失われた着」に足を運んだ。
彼は、うわさの真相を確かめてやろうと意気込んでいた。
友人たちは怖がりながらも、健太の熱意に押されて彼について行った。
町の人々が避ける以外、変わり果てた着物屋は、うっすらとした月明かりの中に浮かび上がった。
外観は時間にさらされ、寂れた印象を与えていたが、窓の中からはかすかな灯りが漏れ出していた。
健太たちはその光に誘われ、恐る恐る店の中へと足を踏み入れた。
中に入ると、むんむんとした不気味な空気が漂っていた。
薄暗い店内には、ぽつりぽつりと置かれた着物があった。
時の流れに漂った埃と、亡くなった人々の想いが交じり合ったような匂いがした。
そんな中、彼らは一着の美しい着物を見つけた。
それは、まるで生きているかのように艶やかで、何か特別な力を持っているかのように思えた。
「これ、本物だ!」健太は友人に声をかける。
「こんなに美しい着物、見たことない。」
しかし、友人たちは不安な表情を浮かべていた。
「早く帰ろう。こんなところにはいない方がいいよ。」
その時、突然、店の扉がガタリと閉まった。
驚きの声を上げる健太たち。
暗闇に包まれた部屋の中、彼らは恐怖に震えながら互いの姿を確認した。
そよ風のように涼しげな声が耳元で聞こえた。
「私の着物を、返して。」
その声は、まるでそこにいるかのように響いた。
恐怖に駆られた彼らは、ぎゅっと目を閉じて耳を塞いだが、その声はさらに強まった。
「私を助けて。道を示して。」
彼らはその声に従い、道を探すことにしたが、暗闇の中では何も見えなかった。
焦った健太が振り返ると、何もないはずの壁の向こうから、二つの影が現れた。
それは紗恵と、失踪した二人の女性だった。
「あなたたちも、道を迷っているのね。」
身の毛もよだつ思いがした。
彼らは経験したことのない恐怖の中で、何も言えずに立ち尽くしていた。
その瞬間、店内の雰囲気が変わり、暗い影が彼らに迫ってきた。
「あなたの命を、私に捧げてほしい。」その言葉は、彼らの脳裏に刻み込まれた。
友人たちの中には、リーダーとしての責任感から、一人が勇気を出して叫んだ。
「早く外に逃げろ!」
その瞬間、影は襲い掛かってきた。
健太は急いで走り出し、他の友人たちも後を追った。
楽しかった夜が一変し、恐怖の道をたどることになった。
彼らは必死に逃げたが、振り返ると、まだ影が追ってくるのが見えた。
その姿が徐々に近づいてきて、まるで彼らを奪おうとしている。
「ああ、助けて……!」
無事に町へと戻った彼らは、振り返ることができなかった。
しかし、その夜の出来事は長く心に刻まれることとなり、恐怖がその町の人々の記憶に深く根を張った。
失ったものを求める声は、今でも影の中で響いているかのようだった。