「迷いの森の守護者」

昔々、ある村の近くに「迷いの森」と呼ばれる不気味な場所があった。
村の人々はその森に足を踏み入れることを恐れ、近づくことさえしなかった。
森の中では、数多くの人が道に迷い、帰れなくなったという話が語り継がれていた。
そのため、迷いの森には「印」をつけて、自分の道を見失わないようにしなければならないという教えがあった。

ある日、村に住む大学生の裕樹は、友人の亮と共にその森の探検を決意した。
裕樹は、恐れを知らない若者の好奇心に駆られ、迷いの森の伝説を本当に確かめたくなったのだ。
亮は最初こそ付き合う気ではなかったが、裕樹の不思議な魅力に引き込まれ、結局一緒に行くことにした。

二人は夕方に森に入った。
内心の不安を抱えながらも、裕樹は胸を高鳴らせて進んだ。
周囲には古びた木々や、不気味な影が立ち並び、薄暗い空気が漂っていた。
森の中を進むに連れ、次第に日が沈み、まわりが闇に包まれていく。
しかし、裕樹は何か特別な体験が待っていると信じていた。
ついに彼は「印」を付けることをすっかり忘れてしまった。

深い森の奥へと進むと、突然、周囲が薄暗くなっていくのを感じた。
何かが彼らをじっと見つめているような感覚が、裕樹の背筋を冷やした。
その瞬間、彼は人々のささやきが耳に入り、断片的な言葉が浮かんできた。
「孤」「燃」「な…」。
それは、何か大きな悲しみの残滓のように感じられた。

ついに、裕樹は目の前に小さな clearing(開けた場所)を見つけた。
そこには古びた木の台座があり、真ん中には燃え盛る小さな炎が揺らめいていた。
裕樹は、好奇心から近づこうとしたが、亮がつかまえた。
「やめろ、裕樹!何か怖いことが起きそうだ!」亮の声には恐怖が混じっていたが、裕樹はその炎に引き寄せられていた。

そして、裕樹は炎の前に立ち、無意識のうちにその炎を指さした。
その瞬間、燃えている炎の奥から、不気味な人影が現れた。
それはかつてそこに迷い込んだ人々の姿だった。
彼らは助けを求める顔で裕樹を見つめていた。
裕樹は、その表情に衝撃を受けた。
「なぜ、私はここにいるのだろう?」と彼は自問自答したが、答えは見つからなかった。

炎に照らされながら、その影たちが一斉に裕樹を指差し、悲しげな声で叫び出した。
「孤…!燃え尽きぬ想いを、消さずに持っていけ…!」その言葉は裕樹の心に突き刺さり、彼は何か大きな使命を背負ったかのように思えた。

亮は怯えながら後退し、森から出ようとしたが、裕樹はその場に立ち尽くした。
「私はここに残る…」裕樹はそうつぶやき、燃え上がる炎に手を伸ばした。
が、炎は彼を飲み込むように燃え上がった。
同時に、彼の心の奥から何かが湧き上がってくる。
彼はその激しい感情を受け止め、炎と一体化した。

気がつくと、裕樹の周りには光が満ちあふれ、彼の心には謎めいた印が残る。
その瞬間、裕樹は気づいた。
彼はこの森で迷い、愛や未練を抱えた魂たちの守護者となる運命にあったのだ。
これからは、彼がこの森に入る者たちを導く役割を果たすのだと。

一方、亮は慌てて森を抜け、再び光のある場所へと逃げた。
振り返ってみても、裕樹の姿はもう見えなかった。
彼は友人の声を心に刻み、二度と迷いの森には近づかないと決意した。

こうして、裕樹は迷いの森に残り、彼の想いは永遠に燃え続けることとなった。

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