「迷いの森の囚われ」

ある夜、東京郊外の小さな村に住む佐藤優斗は、長年の親友である田中美香とともに、不安な気持ちを抱えつつ散歩に出かけた。
この村には古い伝説があり、特に夜になると恐ろしい出来事が報告されていた。
美香はその話を聞かされて育ったため、心のどこかでその恐怖を感じながらも、優斗と一緒だから大丈夫だと思っていた。

二人は村の外れにある森に足を踏み入れた。
そこには、途方もない静けさが広がっており、時折風が木々を揺らす音だけが耳に入ってきた。
月明かりが薄暗い道を照らし出し、あたりの景色を幻想的に浮かび上がらせていた。
「こんな所、暗すぎて怖いね」と美香が言った。
「大丈夫、俺がいるから」と優斗は鋭い意志を込めて返したが、彼自身も不安が募っていた。

少し歩くと、突然、道端に立ち尽くす一人の女性が目に入った。
彼女は白い服を着ており、肩まで伸びた黒髪が夜風になびいていた。
優斗は驚いて立ち止まり、「ねえ、君、大丈夫?」と声をかけた。
しかし、女性は首を振り、何も言わずにただ森の奥に目を向けていた。
その瞬間、優斗は彼女の目が何かに怯えているように見えることに気付いた。

「行こう、優斗」と美香がそっと言ったが、優斗はその場から動けなかった。
「ちょっと待って、彼女に何かあったら…」と優斗は胸が締め付けられる思いで叫んだ。
美香は不安を感じつつも、彼の手を引いて森を進ませた。

さらに進むと、不気味な現象が起こり始めた。
目の前の道が急に歪み、階段が出現したり、まるで空間が歪んでいるかのようだった。
二人の背後には、村の伝説に登場する「限界を越えた者は、決して帰ることができない」という言葉が頭をよぎった。

「この道は何かおかしい、早く戻ろう!」美香の表情は次第にひきつり、優斗も自らの判断を誤ったことを後悔し始めた。
しかし、足元の道はあらぬ方向に進んでいた。
周囲の木々は不気味に斜めに生え、全てが彼らをじっと見守っているかのような錯覚に陥る。
優斗は急に不安に襲われ、「もう無理だ、俺たち、出られなくなる!」と叫んだ。

それでも、二人は引き返そうと必死に進んだが、進む先には常に新しい道が現れるだけだった。
そんな状況の中、再びあの女性が視界に入ってきた。
彼女は今度は横に並ぶように立ち、冷たい目で二人を見つめていた。
「もう遅い、ここはあなたたちの場所ではない」と、声にならない声が聞こえたかのように感じた。

不安と恐怖がピークに達し、優斗は思わず美香の手を強く握りしめた。
「あの女、俺たちを…」と呟くと、その瞬間、背後から耳をつんざくような叫び声が響いてきた。
「助けて!もう帰れない!」それは、先ほどの女性の声ではなく、別の誰かのものだった。

優斗は一瞬、気を失いかけたが、意を決して周囲を見渡すと、他にも何体かの影が浮かび上がってきた。
彼らは助けを求める姿勢を保ちながらも、徐々に距離を縮めてきていた。
美香は恐怖に震え、「早く逃げよう!」と叫んだ。

二人は迷子になった道を一目散に走り出した。
心臓が高鳴り、呼吸が乱れ、後ろから迫る影の存在を感じながら必死に逃げた。
「お願い、見つからないで!」と美香の声が響く。
しかし、再び道が歪み、彼らは同じ場所に戻されてしまう。
無限の迷路に囚われたかのように、森は彼らを飲み込もうとしていた。

ついにその時、優斗は「あの女性が何かを隠しているんだ、彼女に聞いてみる!」と決意した。
振り向いた瞬間、女性の姿が目の前に現れた。
しかし、恐ろしいことに、彼女の周りには無数の顔が浮かんでいた。
優斗は叫び、「君たち、何をされるんだ!」と声をあげたが、その時、彼の目の前に立っていたのは、美香の姿だった。

彼女は優斗を見つめ、何も言わずに泣いていた。
その涙を見た瞬間、優斗は全てを受け入れることができた。
二人は迷い続ける運命を共にする決意を固め、再び森の奥へと入っていった。
恐怖と悲しみがその空間を包み込み、彼らは永遠に迷い続けることとなった。

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