「迷いの家の血」

帯の街には、血にまみれた噂が絶えない不気味な場所があった。
それは、古びた神社の近くにある一見普通の廃屋である。
そこでは、夜が深くなると、迷い込んだ者たちが悲鳴を上げ、誰も抜け出せなくなるという言い伝えがあった。
人々は、その廃屋を「迷いの家」と呼び恐れていた。

ある日、大学生の健太は、友人の沙織と一緒にこの「迷いの家」を訪れることになった。
「本当にここに来る必要あるの?」と心配する健太に、沙織は笑顔で「大丈夫よ、ただの噂だから。それに肝試しだし、少し冒険してみようよ。」と明るく応じた。

二人は薄暗い道を進んでいくと、次第に不気味な静けさが増していく。
脚で踏みしめる落ち葉の音だけが、二人の心臓の鼓動に重なった。
やがて、目の前に現れたのは、長い年月によって朽ち果てた廃屋だった。

「これが噂の迷いの家…」健太は恐る恐る中へと足を踏み入れ、暗闇に包まれた室内を見渡した。
すると、廃屋の壁には不気味な模様が描かれており、何か得体のしれない霊気を感じた。
「やっぱり、ここはおかしいよ…」健太が言うと、沙織は無邪気に「あなたが怖がっているからだよ、私がついているから大丈夫。」と彼を励ました。

二人が奥に進むうちに、突然、前方に小さな扉が現れた。
健太は不安を感じつつも「ちょっと入ってみよう」と提案した。
しかし、沙織は不思議そうに「入ってみる価値はありそうよ」と微笑む。
健太は彼女に引っ張られるようにして、その扉を開けた。

中には小さな部屋が広がっていたが、その床には赤い液体が広がっているのが目に入った。
「まさか、血…?」健太は目を奪われながら呟いた。
「きっと、これが噂の…」沙織も言葉を失った。
その瞬間、部屋の空気が凍りついたように重たくなり、二人は背筋に寒気を覚えた。

「戻ろう!」健太が急いで廊下に出ようとすると、恐ろしい声が響いた。
「迷っているのか?」その言葉はまるでどこからともなく聞こえてくるようだった。
健太は足がすくむ中、沙織を見つめ、「早く出よう」と彼女を促した。
しかし、彼女はなぜかその場に足を止めていた。
「あれ…見て…」と彼女が指さした先には、暗闇の中にうっすらと現れた人影があった。

それは、かつて迷い込んだ者の姿をした ghost で、その口からは血が滴り落ちていた。
彼女は震えながら呟く。
「私を…解放して…」その声が鳴り響くと同時に、部屋の壁がゆがみ、現実が歪んでいるような感覚に襲われた。
健太はパニックになり、沙織の手を強く引っ張って逃げ出そうとした。

しかし、迷いの家は彼らを拒むように、道が次第に閉ざされていく。
何度も後ろを振り返ると、血を流す ghost の姿が彼らを追いかけてきた。
「迷っているのか?選んで来たのはお前たちだ」と言葉が響く。

沙織が「私は迷ってなんかいない、私は戻る!」と叫び、彼女は血の広がる場所を目指して走り始めたが、廊下はどこかに連れて行かれるように、さらに曲がりくねっていた。
健太は彼女を追いかけながら、心の中に恐怖が広がっていくのを感じた。

やがて、二人は真っ暗な部屋にたどり着いた。
沙織は強い光の中で倒れ込んでしまった。
「沙織!」健太は彼女に近寄り、無意識の彼女の言葉が口を突いて出た。
「今、私を迷わないで…でも…恐れないで…」

健太は沙織を抱きしめ、次の瞬間、強烈な光と共に彼女が消えた。
彼は一人ふたたび部屋に立ち尽くし、再び現れた ghost の言葉が耳にこだました。
「迷いの道を選んだのは、お前自身だ…」

健太は恐怖の中で答えた。
「戻る…戻れる…間違っている!」だが、彼の声は虚しく響き渡るばかりだった。

迷うことの恐れ、迷いたくないという欲望が、彼をさらに深い嵌まりに引き込んでいった。
彼は、人間の持つ暗い欲望や、恐れが生む迷いの先に待つ真実に、いつまでも気づくことはなかった。

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