夜の静けさに包まれた古びた家。
その家は、地域の人々には「迷いの家」と呼ばれ、不思議な現象が絶えず起きていると言われていた。
主人公の護は、興味本位でその家に肝試しに訪れることを決意した。
護は、夜の街を歩きながら心を躍らせていた。
彼はいつも怖い話やオカルトの話に興味を持っていたので、夜の住宅街に立ち尽くすその家の様子が気になって仕方なかった。
すると、友人たちの声が耳に飛び込んできた。
彼らは護を心配して訪ねてきた。
「お前、あんな家に行くなんて、本当に大丈夫なのか?」友人の健二が心配そうに言った。
「そうだよ、迷い込んだら帰れないかもしれないぞ」と別の友人、雅也も続けた。
しかし、護はそんなことはお構いなしに家の前に立つ。
ドアを開けたとき、古い木の床がギシギシと音を立て、彼の心臓が一瞬高鳴った。
薄暗い廊下の奥には、何も見えない。
冷たい風が吹き抜け、護は思わず身震いした。
「大丈夫だ、ただの古い家だ」と自分に言い聞かせながら、彼は一歩踏み出す。
中には散らかっている家具や、埃をかぶったおもちゃがいくつか見えた。
護は奥の部屋へ進んでいく。
その間も、床が妙に音を立て、まるで彼の足音に反応しているかのようだった。
さらに進むと、広いリビングに出た。
そこには、壁に掛けられた古びた時計があった。
しかし、時計の針は動いておらず、時はいつまでも止まっているように見えた。
その時、護は奇妙な気配を感じた。
まるで誰かが見ているかのような、背後からの視線。
しかし振り向いても誰もいない。
彼は不安になり、「帰ろうかな」と口にしてしまった。
だが、どこかに引き寄せられるような感覚があり、その場から動けずにいた。
気づけば、家全体が不気味な静寂に包まれ、彼の心はだんだんと不安に沈んでいった。
護が床を踏みしめるたび、その床がまるで何かを訴えているかのように響く。
「迷い込む」とはこういうことなのかもしれない、と護は思った。
しかし、彼はここから帰ることができるのだろうか。
そんな不安が次第に膨れ上がり、彼はその場に立ち尽くしてしまった。
さまよう時間の中で、護は次第におかしなビジョンを見始める。
目の前にかつてこの家に住んでいたであろう家族の姿が現れ、その家族は何かを探し求めている様子だった。
彼らの無表情な顔は、護を見つめて、まるで「ここに留まれ」と言っているかのようだった。
護はゾッとしたが、同時にその家族に対する同情も抱く。
「何を探しているのだろう?」彼は自問自答した。
ふと、フローリングのひび割れに気づいた。
踏むたびに床が微かに呼びかけているように感じられ、その音の中に家族の哀しみが込められているように思えた。
「帰れないのか…?」護は全身に不安を感じた。
しかし、彼はもう一度踏み込む勇気を振り絞り、床に手を当ててみた。
すると、その瞬間、床が波のようにうねり、彼を囲むかのように暗闇が迫ってきた。
「帰りたい、帰りたい!」と深く願いながら、護は全力で床を繰り返し叩いた。
その時、視界に現れたのは、彼を取り囲むかのように立ち尽くす先祖たちの姿だった。
「我々はここで迷っている。助けて欲しい!」悲痛な声が耳に届く。
しかし、護は言葉を失った。
混乱と恐怖の中で、彼はただ「帰りたい」と繰り返す。
その後、護が意識を取り戻した時、彼はどこにいるのか分からなかった。
周りは真っ白で、ただ静寂だけが支配していた。
そして、あの古い家のことは彼の記憶から消え去っていた。
しかし、彼の心の奥には、何かを探している家族の姿がぼんやりと残っていた。
彼はその後も時折、夢の中で迷い込んだ家を思い出し、迷わずに帰ることの大切さを感じるのだった。