ある静かな夏の夕暮れ、健太は近所の古びた園に足を運んだ。
子供の頃からこの場所は不思議な雰囲気を纏っており、決して近づいてはいけないと両親から言われていた。
しかし、好奇心が勝り、彼は友人たちと共に探検することに決めた。
園の入口には、錆びついた鉄の門があった。
健太はその門を押し開けると、木々に囲まれた小道が広がっていた。
木漏れ日が差し込み、どこか神秘的な空間に誘われる。
友人たちは最初こそ笑い声を上げていたが、次第に緊張感が漂い始めた。
「ここ、本当に不気味だな」と友人の大輔が言った。
健太も同様に感じていたが、内心ではそんなことを気にする自分を恥じていた。
無事に探検を終えるつもりで奥へ進むと、突如として空気が変わった。
周囲の鳥たちが急に静まり返り、不気味な沈黙が支配した。
その瞬間、健太の背筋が凍りついた。
健太は思わず「帰ろう」と告げたが、友人たちは「まだここにいるべきだ」と頑なに意見を譲らなかった。
彼らは探検を続けることに決め、ベンチのある広場へと辿り着いた。
そこには古びた石碑が佇んでいた。
文字が彫られているが、どんな意味なのかは読み取れなかった。
「これは怪しい、なんかやめようよ」と健太が言った。
その時、冷たい風が吹き抜け、彼の髪を揺らした。
友人の一人、明恵が何かに気が付いた。
「見て、あの木の根元に何かある」と言って、皆が彼女の方を振り向いた。
そこには、手のひらほどの大きさの黒い石がうずくまっていた。
「触ってみたい」と明恵が言い、他の友人たちも次々と同意した。
健太は再び不安を覚えたが、自分の意見は軽視されてしまう。
その瞬間、彼の心に不安の影がよぎった。
「絶対に触らない方がいい」と思い直したが、同時に彼らの結束に逆らうこともできなかった。
明恵がその黒い石を手に取った瞬間、全てが変わった。
石から淡い光が放たれ、周囲が眩しく光っていった。
そして、世界がゆがみ、どこか異次元のような風景へと急に変わった。
色鮮やかな霧が立ち込め、摩訶不思議な音が周囲に響いた。
健太は、恐怖で体が動かせずにいた。
彼らの姿も変わっていく。
明恵の手元には、石の代わりに不気味な影が現れ、彼女の目が虚ろになった。
「助けて、健太!」と叫ぶ明恵の声が、遠くから響いているように感じられる。
周囲に目を向けると、友人たちも同様に異界に飲み込まれていく姿が見えた。
無限の雲を引き裂くように、健太は走り出した。
「戻ろう、戻らなければ!」彼は必死に叫んだが、自分の声すら届いていないようだった。
ついに、健太は黒い石の跡地へたどり着いた。
咄嗟に石を元の場所に戻そうと手に取る。
しかし、石は消えてしまっていた。
すでに時遅し。
彼の周りには霧が広がり、もはや仲間たちの姿は見えなかった。
彼は絶望でおののきながら、どうにかして出口を探そうとするが、前方には果てしない空間が広がり、歩き続ける道も消えかけていた。
心の底から、「何をしたのか」と自問自答した。
果たしてこの園が本来の姿を取り戻すことはあるのか、あるいは見えなかった界に、彼は永遠に迷い込んでしまうのか。
恐れと後悔が胸を締め付ける中、健太はただ一つの願いを抱いた。
「どうか、必ず戻ってみせる」心の中でそう呟き、いつか彼がこの場所を抜け出せることを信じて、再び目を閉じた。