佐藤直樹は、ある夏の夜、古びた村のはずれにある「り」という伝説の場所に足を運んだ。
そこは、昔から「迷いの光」と呼ばれる不気味な現象が起こる場所で、人々は近寄ることを避けていた。
直樹は、大学の研究の一環としてその場所を訪れることにしたが、その背景には、朋友の千春が数年前に失踪した理由を探る想いもあった。
村人たちから語られる「迷いの光」は、夜になると現れ、道に迷った者を導くかのように光を放つ。
しかし、その光は決して助けてくれるものではなく、むしろ迷わせる力を持っていると噂されていた。
千春もその光に導かれ、帰らぬ人となったのだと。
直樹は、夜が訪れる前に遺された千春の足跡を辿るため、古い神社の近くにあるとされる大きな木の下で待機することにした。
彼は懐中電灯を手に、その通り道を目指した。
森の中の静けさが、夜になるにつれて恐怖を募らせていく。
やがて、薄暗くなった頃、予想通り、少し離れた場所で微かな光が瞬いているのを発見した。
心臓が高鳴り、直樹はその光を追いかけ始めた。
「千春、いるのか?」と心の中で叫びながら、光が誘う方へと足を進めた。
だが、周囲の木々が薄暗がり、すぐに道がわからなくなってしまう。
不安が彼の心を占め、次第に恐怖へと変わっていった。
その瞬間、光が一瞬消え、再び点滅する。
直樹は一瞬、目を閉じた。
再び目を開けると、そこには一人の少女が立っていた。
彼女の表情はぼんやりとしており、まるでこの世にいるかのようでないかのようだった。
直樹は彼女に気づき、驚く。
「千春?」と呼びかけるが、彼女は何も言わず、ただ直樹を見ている。
その時、彼の耳に微かに「助けて…」という声が響いてきた。
思わず振り向くと、光がその少女の周りを取り囲むように回り始めた。
そして、直樹はその光の中に、こちらを見つめるたくさんの顔を感じた。
それは、何かに縛られた霊たちだったのかもしれない。
「逃げて!」という叫び声が心の奥から沸き起こる。
それは、千春の声のようだった。
彼は急に身の危険を感じ、冷静さを失いながら、よろよろと後ろに下がった。
足元がもつれて倒れそうになると、再び少女が彼の前にその手を差し伸べてきた。
「お願い、お兄さん」と彼女は呟いた。
その声は優しいが、どこか寒々しい響きを持っていた。
直樹はその言葉に引き込まれるように立ち上がり、彼女の手を取ろうとしたが、彼女の指が伸びてしまうことに気づく。
それは、呪いのようなもので、この光に触れたら終わりだと直感した。
心を決めた直樹は、「千春を返してくれ!」と叫ぶ。
その瞬間、周囲の光が一斉に消え、少女は不気味に笑い、霧のようなひと筋の影となり消えた。
直樹は急いでその場を逃げ出し、光の現れた場所から必死に離れた。
その夜、直樹は村の人々に助けを求めたが、村人たちは何も考えたくない様子で、やがて友のことについて語ることは避けるようになっていた。
ただ、付け加えられたのは、「り」には近づくなという忠告だった。
直樹はその警告を胸に、光の真実を掴むことを決意したが、その背後にある恐怖の影は、常に彼を見つめていることに気づいた。