廃墟の村、過去の記憶が息づく場所だった。
陽光が差し込まず、朽ち果てた木々が周囲を囲むその地で、佐藤健一は仲間たちと共に廃墟探検を計画した。
以前から耳にしていた、廃村にまつわる奇妙な噂が彼の好奇心を刺激したのだ。
「ここ、ほんとに大丈夫かな?」友人の中村が少し不安そうに言った。
皆の目が健一に向く。
彼は自信を持ってうなずいた。
「大丈夫、ただの遺跡みたいなもんさ。何かあっても楽しめるよ!」
彼らは夕方に村に到着した。
薄暗い空の下、錆びついた門をくぐり、古びた建物が並ぶ道を歩き始める。
風が冷たく、まるで誰かに見られているような気配がした。
仲間たちが話し声を交わしながら進む一方で、健一の心は過去の物語に引き寄せられていった。
村の中心にある古い集会所に到着したとき、健一は一瞬足を止めた。
中にある内装が異様に整然としている。
無残に砕けている家屋とは対照的だ。
何かがここに留まっているのだろうかと感覚がざわつく。
「ほら、見てよ」と言いながら中村が奥へ進む。
残りのメンバーも続いていくが、健一はその場に留まった。
なぜか、この廃墟の中央にある床の一部が気になって仕方がない。
彼は足を近づけると、そこに緑色のシミがあることに気づいた。
「こっち、何かあるよ!」声をかけようとした瞬間、健一の目に何かが映った。
彼が立っている場所からゆっくりと、不気味に動く影が忍び寄ってくる。
「健一、来いよ!」中村の声が遠くから響く。
健一の心臓が早鐘のように打ち鳴らされる。
彼は振り返りかけたが、不気味な動きが目を離せない。
恐怖に駆られながらも、健一は影を注視した。
それは彼の足元に存在感を増していく。
冷たい風が彼の背筋をなで、思わずワナワナと震えが走った。
その瞬間、健一の足元に触れた何かが、彼を本能的に引き寄せた。
しかし足元には確かに何もないはずだった。
「どうしたの?」中村が再び声をかける。
健一は一瞬の隙をついて廃村から逃れようとしたが、足がまるで地面に張り付いているかのように動かない。
足元からの異様な感覚が、彼の心をさらに不安にさせていた。
「佐藤?」中村の声が緊張感を帯びていく。
健一は恐る恐る振り返り、周囲を見渡す。
友人たちの顔から笑顔が消え、不安そうな表情に変わっていた。
すると彼らもまた、健一の足元に見える何かに気づき始めた。
「私たち、早く去った方がいい。気のせいじゃない、なんかやばいって!」中村が叫ぶ。
しかし、健一はそれを聞き入れることができずにいた。
彼が見ていたものは、古びた足跡のように冷たく、そして彼を引き寄せる力を持つ存在だった。
足元に横たわる影は明確になり、まるで人の足が埋まっているかのようだった。
健一は恐怖の中、思わず身を引いたが、依然として地面に引き締まるように掴まれた感覚が続く。
「私はここにいる、私は決して去らせない」不気味な声が響いた。
まるでその影が彼に語りかけているかのようだった。
友人たちの声が遠くなり、健一の世界は彼だけのものになっていった。
「お願い、助けてくれ!」彼は叫んだが、声は虚しく響くばかり。
影が徐々に彼の足を包み込んでいく。
恐怖により心は混乱し、目の前の現象にただ呆然としていた。
そのとき、健一は気づいた。
彼が足元で見た影は、自身の過去の足跡、背負ってきたさまざまなものの象徴だったのだ。
健一は過去を振り切れず、今もこの廃村でさまよっているかのようだった。
彼は思わず足を引いて叫んだ。
「私は過去を捨てる!行かせてくれ!」
すると、不気味な影が一瞬にして消え、冷たい風が彼を包み込んだ。
彼の足元からの重苦しさが解放され、ようやく動けるようになった。
驚くべきことに、友人たちも少しずつその場から動き出す。
「健一、大丈夫か?」中村が心配そうに尋ねてきた。
健一は何とか身を起こし、その場から去ろうと決心した。
“去る”ことが彼にとって必要だったのだ。
彼は仲間たちと共に廃村を後にした。
しかし、振り返るとそこにはまだ何か残っていた。
冷たく光る目、そして不気味な声が遠くから聞こえた。
「決して忘れないで、あなたの足跡はここにある」という囁きが、静寂の中に消えゆくのを感じながら。