原という小さな町があった。
その町には「赤い道」と呼ばれる不気味な場所が存在していた。
道を進むと、薄暗い茂みが広がり、その先には誰も入ることを避ける古びた廃墟が見えるという。
町の住人たちは、「その道を通った者は、必ず変わった何かを背負って帰ってくる」と口々に語り継いできた。
主人公の高橋は、この町で平穏に暮らす普通の男子学生だった。
彼は噂話を聞いても、あまり信じることはなく、「そんな迷信に振り回されるなんて、馬鹿らしい」と思っていた。
ある日、友人たちとの会話の中で、その赤い道の存在が再び話題に上がった。
好奇心が湧いた高橋は、友人たちに冗談混じりに「行ってやろうか?」と提案した。
友人たちは最初は「やめとけ」と止めたが、高橋の意志が硬いことを知り、結局一緒に行くことになった。
夜の帳が降り始め、彼らは懐中電灯を持って赤い道を歩き出した。
道は思ったよりも静かで、月明かりに照らされた赤い枯れ葉が道の上に敷かれている。
歩くたびに、サクサクと音が響いた。
通り抜けるうちに、不気味な静寂が彼らを包む。
友人たちは徐々に怯え始め、高橋はそんな彼らを励ましながら歩を進めた。
しかし、急に霧が立ち込め、視界が悪くなると、異様な声が耳に届いた。
「誰?」と囁く声が、周囲の暗闇から響いてくる。
それは何者かが彼らに向かっているようだった。
高橋は勇気を振り絞って囁き声の方を振り返ったが、何も見えなかった。
もちろん、友人たちも怯えている。
ただ、彼らの目には明らかな恐怖が映っていた。
高橋は「気のせいだ」と思い、無理に笑顔を作った。
その時、友人の一人が突然に「赤い道に近づきすぎた」と言い始め、過去の噂話を持ち出し続ける。
その瞬間、彼の顔が真っ白になった。
途端に周囲に赤い光が閃き、静けさの中に赤い影が現れた。
「変だ、変だ…」と友人たちが呻き声を上げ、高橋も恐怖に駆られた。
彼らはその赤い影が自分たちに向かってやってくることを直感した。
目の前には、赤い衣を纏った影がゆっくりと近づいてくる。
誰かの姿に似ている。
しかし、それはただの影に過ぎなかった。
高橋は恐怖を振り払おうと「逃げよう!」と叫び、仲間たちを引っ張り始めた。
だが、影は彼をまとめて包み込み、彼の心に暗闇が漂い込む。
周囲の景色が一瞬、赤い霧に包まれたかと思うと、消えてしまい、気がつけば彼は一人ぼっちだった。
友人たちの姿は消えており、ただ赤い道だけが続いていた。
高橋はパニックに陥る。
道をびしょびしょの赤い水が流れ、嫌な匂いが立ちこめてくる。
彼は「誰か助けて」と叫んでみたが、自分の声すらも消えていく。
「変だ、変だ…」と彼の心の奥底から疑念が渦巻く。
その時、彼は「あの道を通った者は変わる」という言葉を思い出した。
それはただの噂話ではなく、本当に現実なのかと疑い始めた。
高橋が必死に戻ろうとするが、どこに行こうとも道は果てしなく続いていく。
彼は何もわからなくなり、ただの赤い道に取り残されたまま、「帰ることができない」と悟った。
その瞬間、彼の背後に赤い影が忍び寄り、「おまえも仲間になれ」と囁いた。
高橋はその声に反応するように振り返り、影の無数の目が彼を見つめているのを見て恐怖で心が締め付けられた。
深い赤の世界に飲み込まれ、彼は永遠にその道に留まることになった。
原の町では、今もこの赤い道の話が語り継がれ、高橋の行方を知る者はいない。
彼はいつしか、「知りたくない何か」を背負った存在として、町の人々の記憶から消え去っていくのだった。