夜の座は静まり返り、舞台の上にはほの暗い赤いライトが灯る。
そこに立つのは、かつて名高い女優だった霧島由紀。
彼女は若き頃、数々の壮大な舞台を飾ってきたが、今は舞台から遠ざかり、数年ぶりにその座に戻ることになった。
しかし、彼女の心の中には憎しみが渦巻いていた。
由紀の心を苛むのは、彼女の親友であり、同僚でもあった美咲の存在だった。
美咲はその美貌と才能で瞬く間に人気女優となり、由紀をあっさりと影に隠してしまった。
由紀は次第にその成功を羨み、憎悪さえ抱いていた。
彼女はいつしか舞台に立つことを恐れるようになり、彼女の中には美咲への呪いの感情が芽生えていた。
数日の稽古を経て、由紀は運命の日を迎える。
開演前の楽屋で、彼女は緊張していた。
周囲の仲間たちは彼女を励まし、そして美咲もその中にいた。
美咲は彼女の頬に軽く手を添えて、「大丈夫、あなたならできるわ」と微笑んだ。
しかし、その微笑みが由紀の心をさらにざわつかせた。
憎しみはようやく、その中で生まれた呪いの形を取ることになる。
舞台が始まり、観客たちの視線が彼女に向けられた。
舞台上の由紀は、赤いスポットライトに照らされ、力強く演技を行う。
だが、彼女の心の中には美咲の存在がモヤモヤと渦巻いており、演技に集中できなかった。
次第に、由紀の目の前に美咲の姿がちらつくようになり、彼女の表情が驚くほど穏やかであるのが気に入らなかった。
その瞬間、由紀の中に潜んでいた憎しみが爆発した。
彼女は無意識に呪文をつぶやき、舞台の空気が一変する。
周囲が赤く染まり、観客の顔が苦しみに歪む。
彼女はまるで美咲を呪い、舞台から帰さないかのように、その状況を楽しんでいるかのようだった。
彼女の演技の声が、徐々に響き渡る。
心のどこかで美咲の成功を呪い、自分だけの舞台を取り戻そうとしていた。
しかし、その時、由紀は恐ろしいことに気づいた。
周囲の人々が悲鳴を上げ、その場から逃げ出そうとしていた。
彼女自身が自分を呪い、舞台に縛りつけているのだと理解した瞬間、赤いライトが急に消えた。
暗闇の中、由紀は恐怖を抱いて立ち尽くした。
彼女の目の前に現れたのは、美咲そのものだった。
彼女は赤いドレスをまとい、美咲の顔にはゆがんだ笑みが浮かんでいた。
「由紀、あなたは私を憎んでいたのね」と、それはまるで彼女の心の声のようだった。
「そんなことはない!」由紀は叫んだ。
しかし、美咲は目を閉じて、ゆっくりと首を傾げた。
「帰りたいなら、私を返して。そうすれば、あなたは自由よ。」彼女の言葉は、由紀の心を捉え、恐怖が彼女を襲った。
由紀はその瞬間、舞台の上で自分が何をしようとしていたかを痛感した。
憎しみから呪いが生まれ、そして彼女自身がそれに囚われていたのだ。
舞台を守るために美咲を憎むことで、自分自身をも囚えられていたことに気づいた。
赤いライトが再び点灯し、由紀は自らの罪と向き合う決意をした。
彼女は舞台上で美咲に向かって一歩近づき、静かに告げた。
「あなたを許す。私も、私自身を解放する。」その言葉と共に、舞台の空気が変わり、由紀は憎しみから解放される感覚を味わった。
次第に、赤い舞台も明るさを取り戻し、由紀は自由に舞台を歩き始めた。
そして、その舞台には美咲の姿がもうなかった。
彼女はようやく呪いから解放され、過去を受け入れることができたのだ。