ある日、若い男性の浩二は、仕事帰りにいつも通る道と少しずれた場所にある古びた敷地を見つけた。
そこには、朽ち果てた家が建っており、周りには雑草が生い茂っている。
彼はその不気味な雰囲気に興味を持ち、思わず足を踏み入れた。
敷地に入ると、普段の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
彼は不意に背筋が寒くなる感覚を覚えたが、好奇心には勝てず、さらに奥へと進んだ。
その瞬間、浩二の視界に「線」が現れた。
それは、真っ直ぐに引かれた赤い線で、地面に刻まれていた。
彼はその線に引き寄せられるように足を踏み入れ、線の先を見つめた。
しばらくして、その線の先に目をやると、彼の目に映ったのは古びた神社の鳥居だった。
そこで、彼は薄暗い中から何かが這い出てくるのを目撃した。
さらに目を凝らすと、それは一人の少女、名を美香と名乗る幽霊であった。
彼女は、かつてこの地に住んでいたが、悲劇的な事故で命を落としたという。
浩二は、美香の無垢な瞳に吸い込まれ、彼女の魂を鎮めるために手を貸す決意を固めた。
美香は、ある出来事があってから、この線に縛られていると言った。
それは、彼女の魂が救われないまま、悲しみのあまりこの土地に留まっているのだという。
浩二は、彼女の話を聞きながら、どうにかして彼女を救えればと思った。
彼女の願いは、自分の存在を忘れないでほしいというものだった。
その時、浩二は彼女のために、何かできることがないかと考えた。
彼は、自分のスマートフォンを取り出し、彼女の話を録音することにした。
「これが終わったら、あなたのことをみんなに話すから。あなたがどれだけ素晴らしい人だったか、ずっと伝えていくよ」と彼は約束した。
録音を終えると、彼は一瞬、彼女の表情が明るくなったのを感じた。
そして、美香は「ありがとう」と小さな声で囁いた。
浩二は彼女の存在を近くに感じながら、彼女の魂を思ってそのままその地を後にした。
数日後、浩二は美香の話を皆に広めるため、彼女のことを探ることにした。
彼は町の図書館に足を運び、彼女の名が記された記事を見つけた。
それは彼女の歴史であり、彼女の命の重さを物語っていた。
浩二は、その情報を手にして、美香の存在を伝えられることに感謝した。
そして数週間後、浩二は再びその敷地に訪れた。
彼は、線の真ん中に立ち、美香の名前を呼ぶ。
「美香、私はあなたを忘れない。あなたのことを話すから、安心してお休み」と言い放つと、彼は目を閉じた。
その時、不思議なことに、彼の周囲が温かい光に包まれた。
浩二はその瞬間、心地よい感覚に満たされ、美香の魂が解放されたように感じた。
彼女の存在が薄れる中、浩二は初めて彼女の笑顔を思い描いた。
そして、彼は自分の中に彼女が生き続けることを確信し、その敷地を後にした。
それ以来、浩二には不思議な体験が続いた。
彼女の供養を続けることで、彼は常に美香の存在を感じることができた。
彼は彼女からのメッセージを受け取るようになり、次第にその線は彼にとって特別なものとなっていった。
自分に関わった人々の魂を救うことは、彼の使命となったのだ。
彼はついに、彼女に対して約束した通り、彼女の名前を広めることで彼女を救ったのだと確信していた。