公園の片隅にある小さな池。
都会の喧騒から少し離れたこの場所は、毎日多くの人々が訪れる憩いの場だった。
特に、夜になると静寂が訪れ、明かりに照らされた池が美しい幻想的な景色を作り出していた。
しかし、その池には不気味な噂があった。
何度か人が行方不明になり、赤い水面が一瞬彼らを見つめ返すというのだ。
大学生の雄介は、その噂を友人たちと笑い話にするため、夜の公園に来ることにした。
彼は軽い気持ちで、「怖がらせるためのネタとして使おう」と考えていた。
友人の恵美や剛も一緒にいて、それぞれにおどけつつ、不気味な話を交わして盛り上がっていた。
暗闇の中、彼らは池の近くに腰を下ろし、横になった。
また、冗談半分に赤い水面の話を始めた。
剛が「赤くなったらどうする?」と尋ねると、雄介は笑いながら、「それを見たら、すぐに逃げるよ!」と答えた。
その時、何かが池の水面を揺らした。
彼らはじっと池を見つめたが、特に変わった様子はなかった。
更に数分が経つと、何の前触れもなく、池の水が間違いなく赤く染まった。
鮮やかな紅色。
友人たちは一瞬静まり返り、次の瞬間、驚きと恐れの表情に変わった。
「何だ、これ…?」恵美が恐る恐る呟く。
剛は「それ、やばいかも…」と震える声で言った。
雄介は、心の中で安堵感と興奮が入り混じるのを感じた。
「ただの照明の反射だろう」と自分に言い聞かせるが、周囲の不気味な雰囲気は彼の心をざわつかせた。
赤い水面が鏡のように彼らを映し出すと、その中に見知らぬ誰かの影が映り込んだ。
誰もがその影を見つめ、白けた空気が流れた。
影はまるで、手を伸ばして呼びかけるようだった。
雄介は恐れを感じながらも、その影に引き寄せられ、立ち上がった。
「見てみろ、あの人が…」と呟きながら、恐る恐る近づいていく。
しかし、近づくにつれて奇妙なことが起こった。
影が単なる影ではないことを知った頃には、彼の体は硬直して動けなくなっていた。
周囲の音が静まり、彼は耳元に低い声を感じた。
「助けて…赤い…逃げて…」
その声はまるで、過去に池で消えていった人々の呼びかけのようだった。
怯えた雄介は後ずさりしたが、その瞬間、赤い水面が波立ち、雄介の足元へと流れ込むように寄せてきた。
彼は慌てて逃げようとしたが、すでに友人たちがパニックに陥り、恵美は泣き叫び、剛は石を投げて池を遠ざけようとしていた。
続いて、自分の背後で、奇妙な音がした。
振り返ると、実のところ誰もいなかったはずの空間に、今度は赤い影が近づいてきた。
それはかつて彼らを呼び寄せた影とは異なり、はっきりとした形を持っていた。
彼は恐怖に駆られ、心の中で「逃げなければ」と叫んだ。
雄介は池を背にして走り出したが、足元の砂利がつまずき、背後で水がザーッと音を立てる。
それはまるで彼を呼ぶように聞こえ、彼の心を揺らす。
彼は振り返りたくないのに、反射的に振り返ると、赤く染まった水の中から無数の手が伸び、彼を引き寄せようとしているのが見えた。
ようやく友人たちの元に戻ると、振り返るたびにその影が自分の後ろに迫っている気がした。
「走れ!ここから離れよう!」と叫びながら、三人は全力で逃げ出した。
公園の出口が見えるその瞬間、単なる風の音だと思った何かが耳元で響いた。
「おいで…赤い水に…」
その声が彼の足を止めた。
恐怖心がさらに増し、彼は何とか意志を振り絞って逃げ続けた。
その後、三人はようやく公園を抜け出し、明るい街の中へ飛び込んだ。
一体あれは何だったのか、今でも頭の中で赤い水面がちらついている。
何事もなかったかのように日常が続いていたが、雄介は時折その赤い池のことを思い出し、彼の心の底に残る恐怖が消えない限り、公園には二度と近寄らないことにした。