かつて、静かな村に「レ」と呼ばれる廃墟があった。
レはかつて栄華を誇った家系の館であったが、今では誰も近寄らない忌まわしい場所として恐れられていた。
この家の中では、当時の主である検(けん)とその家族が不幸な事故に遭って以来、何かが変わってしまったと言われていた。
ある夏の晩、若者の新二(しんじ)は、友人たちとともにレを訪れることを決意した。
「ただの噂だろう、行ってみようぜ」と彼は言い放った。
友人の雅(まさ)と涼(りょう)は最初は躊躇したが、新二の好奇心に引きずられ、結局は同行することになった。
月明かりの中、彼らは重く沈んだ空気を感じながらレに足を踏み入れた。
家の中はほこりと蜘蛛の巣で覆われ、古い家具が不気味にひしめき合っていた。
彼らは緊張した面持ちで家の奥へ進んでいく。
「ほら、何もないじゃん」と新二は笑い、薄気味悪い雰囲気を和らげようとした。
だが、その瞬間、誰もいないはずの廊下に人影がちらりと見えた。
彼らは一瞬凍りついた。
「見たか?今、誰かがいたぞ」と涼が怯え声をあげた。
雅は「気のせいだろう。早く進もう」と言い残し、さらに奥へ進んだ。
しかし、新二は何かが引っかかっていた。
レの中に何かがいる気がしてならなかった。
彼らは次第に部屋ごとに別れ、それぞれの好奇心を満たそうとしていた。
新二は自分の足で感じる異様な気配に導かれ、最後の部屋に足を運んだ。
そこには、鮮やかな赤い染みが床に広がっていた。
それは、人の血のように見えた。
新二が恐る恐る近づくと、何かが彼に触れてきた。
自分の目の前に立つ影は、かつての家族の姿をしていたが、目は虚ろで、笑みを浮かべていた。
「助けて…私のために、血を捧げてほしい」と囁く声が聞こえた。
新二は思わず後退り、その場を離れようとした。
しかし、影は彼を引き止め、彼の内なる感情を刺激してきた。
「あなたが私を救うのです。」
一方、雅と涼もそれぞれの部屋で異常な体験をしていた。
雅は鏡の中に自分の影ではないもう一つの自分を見た。
そこに映るのは、長い間この家に囚われた魂だった。
「私が代わりに生きたい」とその影はささやき、雅に取り憑こうとした。
涼はひとり、暗い書斎に入った。
彼は古びた本を開き、その中に家族の sacrificial(犠牲の)儀式が詳細に書かれているのを見つけた。
該当するページには、『この家から永遠に生き残るには、家族の血を捧げ、魂を受け入れなければならない』と記されていた。
彼の心臓がドクンと跳ね、逃げ出そうとしたが、もう遅かった。
やがて三人は再び合流したが、彼らの中には何かの影響を受けているように見える者がいた。
特に新二は、レに来た時の自信に満ちた目から、意志が薄れているのが分かった。
彼は言った。
「この家には、私たちの記憶を吸い取る力があるんだ…。」
その時、彼らは家の外へ逃げ出したが、まるでこの家の一部であるかのように、目の前が歪んで見えた。
鮮やかな赤い染みは、彼らの心の中にも残っていた。
そして、影は彼らを追ってきていた。
それからというもの、彼らは村に帰ることができなかった。
村人たちは「レの家から逃れられない者たちがいる」と噂を立てるようになった。
新二、雅、涼。
彼らはいつの日か、他の若者たちをこの家へ誘い込む家族となることだろう。
彼らは今も、毎晩月明かりの下で、助けを求めて囁き続けている。
彼らの犠牲と引き換えに、レの中に閉じ込められたすべての記憶が、次の獲物を探し続けているのだ。