ある晴れた日の午後、健太は友人の明美と共に、ドライブへ出かけることにした。
彼らは街を離れ、美しい自然に囲まれた山道を選んだ。
車の中では音楽が流れ、楽しい会話が弾んでいた。
しかし、山を登るにつれて、道は狭く険しくなり、周囲には人影も見えなくなった。
そして、ふと視線が外に向くと、健太の隣には何かが映っていることに気がついた。
「ねぇ、あの山の上に何か見える?」と健太が言うと、明美は窓の外を見上げた。
「あれはちょっと変だね。本当に人がいるのかな?」道を行くうちに、目の前の景色が薄暗くなり、周囲は霧に覆われていった。
その時、二人は大きな木の影で、何か赤い服を着た人影を見つけた。
興味を惹かれた健太は、「ちょっと確認してみよう!」と言い、車を止めた。
明美は戸惑いながらも、「本当に大丈夫なの?」と不安を口にした。
しかし、彼の好奇心には抗えず、二人は車から降りてその方向へ向かった。
しかし、近づくにつれて、その人影は次第にぼやけて見えた。
赤い服を着た少女の形が、風に揺れるように見えた。
確かに人間のように見えるが、姿は曖昧で、まるで幻のようだった。
「何かおかしい…」と明美は震えながら呟いた。
健太はその少女に声をかけようとしたが、声が出なかった。
彼女は無表情で一瞬健太を見つめた後、再び背を向けていった。
そして、霧の中に吸い込まれるように消えていく。
その時、健太は全身に冷たいものが走るのを感じた。
「明美、早く戻ろう!」と叫んだが、彼女の動きが鈍った。
その瞬間、突然すごい風が吹き荒れ、木々が揺れ、周囲は一瞬にして暗くなった。
健太は焦り、明美の手を引いて再び車に向かおうとしたが、何かが彼らの行く手を阻んでいるかのように感じた。
辺りは異様な静けさに包まれ、風の音さえも消え失せた。
「まさか、私たち迷っちゃったの?」と明美の声が不安に怯えていた。
その時、不意に目の前に、さっきの少女が再び現れた。
彼女は冷たい笑みを浮かべており、決して近づいてこなかった。
少女の周囲には影が漂い、彼女の存在が現実とは異なるものであることを教えていた。
健太は恐怖が全身を駆け巡り、何かを言うことすらできなかった。
「おいで…」と少女の口が動く。
辺りの霧が彼女の周りを渦を巻くように動き、彼女は次第に透明になっていく。
「ちょっと待って、何を言っているんだ!」と健太が叫ぶが、少女は無視して消えてしまった。
その瞬間、周囲が一瞬暗闇に包まれた。
空気が重く息苦しく感じ、二人は焦りを感じた。
明美が叫ぶ。
「早く、車に戻らないと!」彼女は健太の手を引っ張り、二人は必死に車へと走った。
車のドアを開け、エンジンをかけた瞬間、再び冷たい風が吹き抜けた。
外を見ると、霧の中に何かが目の前に迫ってきている。
「あれは…?」と明美がうめくように言った。
視線の先には、無数の人影がぼんやりと見える。
彼らは微笑んでいるように見えた。
健太は急いで車を走らせた。
道を戻るにつれて、影と少女のことが頭から離れなくなり、心の中に恐怖が蓄積していく。
車が山を下るにつれて、次第に人影は見えなくなり、霧も晴れていった。
ようやく街に戻ると、安心感と同時に不安が押し寄せてきた。
その後、健太と明美はその山に二度と近づかなかった。
しかし、悪夢に苛まれ、ひたすら同じ夢を見ることになった。
夢の中で、あの少女が「おいで」と呼びかけるのだ。
何度夢を見ても彼女の姿は消えず、いつか現実に引き込まれるのではないかという恐怖が彼らを支配した。
果たして、彼らは本当にあの少女が存在する場所の記憶が薄れていくことを願った。
しかし、森の奥深く、あの赤い服の少女だけは静かに待ち続けていることだろう。
彼女の呼びかけを聞いた者には、必ず不思議な運命が待ち受けているのかもしれない。