修は、静かな町に住む普通の大学生だった。
彼の日常は平穏そのもので、友人たちと過ごす楽しい時間が全てだった。
しかし、ある日、彼の暮らしは一変する。
修は、友人の真一から、山中にある廃墟についての話を聞いた。
そこには「贖いの神」と呼ばれる存在がいるとされ、何かを捧げなければその場所にたどり着けないらしい。
興味をそそられた修は、真一と共にその廃墟を訪れることにした。
彼は、廃墟には神秘的な力が宿っていると信じていたが、もう一つの理由があった。
最近、彼の心に暗い影が迫っていたのだ。
それは高三のときに起こった、友人の遼との事故だった。
修は、彼の死を軽視したことで心の奥底に罪悪感を抱いていたのだった。
廃墟に着くと、彼らはその場所の異様な雰囲気に息を飲んだ。
朽ち果てた木々と、ひんやりとした風が不気味に吹き抜けている。
真一は気にせず探検を始めたが、修は足がすくんで動けなかった。
彼の中で、亡くなった遼の顔がちらつく。
修は、彼がこの場所で求められる贖いの儀式を果たす必要があると感じた。
「遼に謝らなきゃ…」修は思い、心の中で何度も彼の名を呼んだ。
すると、冷たい空気が一変し、彼の周囲が薄暗くなり始めた。
真一もその変化に気づき、何か不穏な気配を感じた。
しかし、修はそのまま廃墟の奥深くへと足を踏み入れた。
まるで、遼が導いているかのように、無意識のうちに廃墟の中心に進んでしまった。
その中心には、小さな祭壇のようなものがあった。
そこには、古い祠や集まった石が置かれ、何かを捧げるための場として作られている。
修は、不安な気持ちと懐かしさが入り混じる中で、その祭壇の前にひざまずいた。
彼は心の中で遼に向かって謝ると、そこに忘れていた思い出が悲しく蘇る。
「ごめん…遼、助けられなかった。」その声を発した瞬間、周囲の空気が重たくなり、薄暗い闇が彼を包み込んだ。
修は目を閉じた。
次の瞬間、何かの気配を感じて目を開けると、驚くべきことに遼が目の前に立っていた。
彼の姿は生前と変わらず、穏やかな笑みを浮かべている。
しかし、その目は何かを訴えかけるような深い悲しみを秘めていた。
「どうして…僕を助けなかったの?」遼の声が響く。
修は、言葉を失った。
彼は自分の心の中の「贖い」を果たそうとし、遼の苦しみを想像していた。
しかし、その重みを実感すると、言葉は出なかった。
「贖いは、受け入れられることが大切なんだ。でも、助けられなかったことで、あなたの心が傷ついているなら、それもまた贖いになる。」遼は続けた。
修は沈黙していたが、彼の深い苦しみが少しずつ薄れていくのを感じた。
やがて、薄暗い空間は徐々に明るさを取り戻し、遼の姿も消えていった。
修は、自分の罪を抱えつつも、遼とのつながりが解放されたことを感じた。
彼は廃墟の外へと戻り、真一が心配そうに待っていた。
廃墟から出ると、夜空に星が輝いていた。
修は、贖いとは他者への思いだけでなく、自分自身の心との和解でもあることに気づいた。
彼は、これからも遼のことを忘れずその思いを大切にして生きていくことを心に決めた。