長い間、田舎の村で暮らしていた藤田は、最近になって自らの家系にまつわる不思議な出来事に遭遇することになった。
彼の祖父は村の歴史を知る老人として知られ、特に「護」という言葉に対して特別な意味を持っていた。
祖父から伝えられた話は、家族が代々継承してきたもので、村には「護」を通じてもたらされる不思議な現象があると言われていた。
ある晩、藤田は村の古い神社を訪れることにした。
神社には昔、神々に感謝を捧げるための祭りが行われていたという。
そして、その神社の近くには一本の古木が立っており、多くの人々がその木を「護の木」と呼んでいた。
木の周りには、さまざまな人々の思い出が刻まれた数多くの傷跡があり、藤田もその木を手で触れ、自分の願いを託えればと思ったのだ。
夜、神社に着くと、藤田は一瞬、周囲の静けさに圧倒される。
月明かりが神社の境内を照らし、不気味な影が生まれていた。
藤田は心を落ち着け、護の木に向かって歩き出す。
彼は自分の願いを心の中で繰り返しながら、その木に手を置いた。
その瞬間、藤田の背筋に冷たい感覚が走った。
何かが彼の心に流れ込んでくる。
彼の視界がぼやけ、ふと気がつくと、薄暗い影が木の周りを囲んでいるのを見た。
村では、昔から神社の周りには目に見えない存在がいると噂されていたが、その影は他の人々とまったく違っていた。
影は人の形をしており、無表情で立ち尽くしていた。
藤田は恐ろしさに耐えきれず、目を逸らそうとしたが、まるでその影に引き寄せられるように、視線が絡みついてしまった。
「護を受け入れろ」と影の一つが囁いた。
その声は静かでありながら、何か強い力を秘めたもので、藤田は無意識のうちに身を乗り出してしまった。
「何が護なのか、私に教えてくれ」と彼は心の中で叫んだ。
その瞬間、影たちの姿がゆっくりと変わり始め、かつての村の風景が浮かび上がってくる。
藤田は、自分の祖父の姿を見た。
彼は笑顔を浮かべており、村人たちと共に祭りを行っている。
藤田はその光景に引き込まれ、自らのルーツを感じる。
祖父は皆と共に「護」を守ったのだと、彼の心に温かさが広がる。
しかし、次の瞬間、藤田の不安が現実に引き戻された。
影たちの声が再び聞こえる。
「護を受けなければ、私たちを恐れることになる」。
影たちは徐々に彼に近づいてきて、ダークなオーラを放っていた。
「私は、私は護を受け入れない！」と藤田は必死に叫んだ。
その声は周囲に響き渡り、影たちは一瞬たじろいだ。
だが、藤田の心に恐れが増すほど、影の数は増えていく。
絶望的な気持ちになった藤田は、無意識のうちに「私の祖父を教えてくれ」とつぶやいた。
その言葉をきっかけに、彼の心に祖父の記憶が浮かび上がり、次第に彼を包む不安が和らいでいく。
影たちは、徐々にその形を失い、消えていった。
藤田は、護を受け入れることはなく、ただ祖父の笑顔や温かい記憶を抱きしめることができた。
彼はその木の前に kneel（ひざまずき）、深く息を吐く。
自分が護の存在を受け入れずとも、祖父が残してくれたものは消えないと、彼は改めて思った。
村を訪れるたび、藤田はその神社に立ち寄ることにした。
もはや恐れることはない。
彼が見た影たちは、ただ祖先の思いが形を変えたものかもしれなかった。
そして、今度は彼が護を見つける番だと思った。
