ある神秘的な町、間町。
この町には、古くから伝わる伝説があった。
その伝説では、特定の場所に立つと、異なる時代の人々と「え」を通じて会話ができるという。
この場所は、「語らいの間」と呼ばれ、町の人々はそこに近づくことを避けていた。
町に住む佐藤健二は、好奇心旺盛な青年だった。
彼はこの伝説を聞いたとき、恐れよりも興味が勝り、ついに語らいの間を訪れることを決意した。
日が暮れた頃、彼はその場所にたどり着いた。
周囲は静まり返り、月明かりだけが彼の足元を照らしていた。
語らいの間には、独特の気配が漂っていた。
健二はその感覚に引き寄せられるように、間の中心に立った。
その瞬間、彼は何者かの存在を感じた。
彼の視界がゆがむと、目の前に一人の女性が現れた。
彼女の名前は和子、間町に住んでいたかつての若者だった。
和子は彼を見つめ、どこか悲しそうな微笑みを浮かべていた。
「私はここにいるの…ずっと待っていたの」と、彼女は囁くように言った。
健二はその声の意味を理解するまでに時間がかかったが、次第に彼女の境遇がわかってきた。
彼女は何かを失い、過去に縛られているようだった。
和子は、かつて自分が想いを寄せていた男性のことを語り始めた。
彼は戦争に行くことになり、帰らぬ人となった。
その悲しみによって、和子はこの間に留まり続け、自らの存在を発以ているのだった。
しかし、彼女にはまだ助けを求める思いがあった。
それは彼女の愛した人を解放してほしいという願いだった。
健二は心の中で葛藤していた。
「私は何をすれば良いのか」と。
彼女の思いを受け止める覚悟を決めたとき、彼は自らの存在が和子に与える影響を理解し始めた。
彼は彼女に何度も過去に訪れることができる術を探す手伝いをしようと決意する。
その思いを共にし、彼女の想いを確かめ続けた。
彼らは語らいの間で交わる度に、徐々に感情が深くなっていった。
彼は和子の悲しみを理解する度に、彼女を解放したいという思いが強くなった。
しかし、二人の絆が深まる一方で、健二は不思議な影響を受け始める。
彼の日常生活も、次第に不安定になっていった。
ある晩、彼は語らいの間で和子と再び会い、彼女の話を聞いている最中に、彼の体がどこか異次元に引きずり込まれる感覚に襲われた。
彼はその瞬間、自分が間の一部となってしまったことを実感した。
彼は過去に囚われたわけでもなく、未来へも行けなくなったのだ。
彼は和子と一緒に「え」を通じて、次々と現れる人々との会話を続けた。
しかし、その会話は彼が待っていたものではなく、孤独と悲しみをさらなる深みへと押し込むものだった。
健二は次第に、自分自身の存在を忘れ、その空間に溶け込んでしまった。
時が経つにつれ、語らいの間は健二と和子の悲しい思い出が交錯する場所となった。
町の人々は、夜になると語らいの間から苦しげな声が響くのを聴くことがあった。
そして、その声は町の暗い記事として語り継がれることになった。
言葉を失った彼は、永遠にこの場所に留まり続ける運命を背負い、「発」の瞬間を待ち続けることになった。
彼にとっては、悲しみも喜びも「り」の結晶となり、やがて薄れることのない影となって町の奥深くに埋もれてしまった。
