「誘われたバラの影」

静かな夜、東京の一角にある小さな公園。
周囲は華やかなネオンに囲まれているが、この場所だけは異なる空気が漂っていた。
公園の片隅には、崩れかけた木製のベンチと、病院のように白く長いバラが生えた木があった。
その名は、皆から「封じられたバラ」と呼ばれていた。

ある晩、佐藤健という名の若者が、友人たちと共にこの公園に遊びに来た。
彼は都会の喧騒から離れ、静かな場所で心を落ち着けようとしていた。
友人たちは興味本位で公園を探検する提案をしたが、健はその場を離れようとした。
なぜなら、この公園には「見てはいけないものがいる」—そんな噂がささやかれていたからだ。

しかし、友人たちは意に介さず、彼を引きずり込むことに。
人々が集まる明るい場所から離れ、彼らは公園の奥深くへと進んでいった。
途中、友人の一人がふと目を留めた。
その目に映ったのは、まるで誰かが割り込んできたかのように、中途半端に成長したバラの木だった。
そこには、他の花々とは異なり、力強い赤い色合いと、少しだけ異様な雰囲気を放つ一輪のバラが咲いていた。

「この木の根元に隠された秘密があるんじゃない?」と友人の中の一人が言う。
好奇心に突き動かされた友人たちは、バラを近くで観察しようとした。
その瞬間、彼らの周囲の空気が変わった。
冷たい風が周囲を包み、佐藤は無性に不安な感覚に襲われた。

友人の一人が恐る恐るバラの周辺に手を伸ばした。
すると、指先が触れた瞬間、何かが彼を引き寄せるように感じた。
健は急に恐れを抱き、叫んだ。
「やめて!それに触れるな!」

しかし、友人たちはすでにその木に心を奪われていた。
彼らの表情は徐々に恍惚としていき、視線はただ一つのバラへと集中していた。
やがて、そのうちの一人が「このバラは封じられている…何かの力がある!」と興奮の声を上げた。
健はその言葉を聞き、心が冷たくなるのを感じた。

その瞬間、バラが揺れ始め、周囲の空気が重く感じた。
パチンという音が響き、健たちは思わず耳を塞いだ。
まるで誰かがその場を割り込んできたかのように、目の前に死んだ眼を持つ女の顔が現れた。
彼女はバラの美しさに魅了され、彼らを拒絶することなく近づいてきた。

「私の花を奪わないで…」彼女の声は耳に響いた。
友人たちはその言葉に呪縛され、ますます彼女の方へと引き寄せられていった。
健は必死に手を伸ばし、「逃げろ!」と叫んだが、誰も彼の言葉を聞こうとはしなかった。

次の瞬間、闇が彼らを包み込む。
まるでその場から時が止まったかのように、健の視界は真っ黒になっていった。
そして、気付いた時には、もう友人たちの姿は見当たらなかった。
彼らの声すら消え、静寂だけが残った。

一人になった健は、恐れと混乱に打ちひしがれた。
逃げろ、逃げろと心の中で叫びながら、彼は必死に公園を後にした。
振り返ると、バラの周りは静まり返っており、もう誰もいないようだった。

後日、彼は友人たちの行方を探し続けたが、誰も見つからなかった。
そして、彼が訪れた日の夜、公園には再び華やかなネオンが照らされた。
しかし、彼の心の中には「封じられたバラ」の恐怖が刻まれ、二度とあの公園には近づかないと誓ったのだった。
彼はただ一人、その夜の記憶を抱え、永遠に孤独な時間を過ごすことになった。

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