「誘われし者の十字路」

静かな街の片隅に、十字路があった。
そこは日々の喧騒から離れ、まるで時間が止まったかのような静けさに包まれていた。
十字路には、街の中でも特に目立つ一軒の古い洋館が立っていた。
女がこの街に引っ越してきたのは、引き寄せられるような不思議な感覚からだった。
彼女の名は美咲。
彼女は都会の喧騒を離れ、静かな環境での生活を求めてこの街にやって来たのだ。

美咲が引っ越してから数日後、彼女は近くの友人から噂を耳にした。
それは、聖なる儀式が行われていたという伝説の存在であった。
その儀式は、夜の十字路で行われるとされ、選ばれた者が「誘われる」ことで行われるというものだった。
美咲はその話に興味を持つと同時に、少しの恐れも感じていた。

ある晩、美咲は不思議な夢を見た。
夢の中で、彼女は十字路に立っており、そこには美しい女性が立っていた。
その女性は、美咲に向かって微笑んでいる。
彼女の目は深い色をしており、まるで彼女の名前を知っているかのように響く。
「あなたも、私と一緒に来ない?」と言葉を投げかけてきた。
美咲は戸惑いながらも、その女性の誘いに心惹かれてしまった。

目が覚めると、美咲はその夢のことを強く思い出していた。
彼女は次の晩、十字路に向かうことを決めた。
「勇気を出すべきだ」と自分に言い聞かせながら、夜の静けさに包まれた中、街を歩いた。

十字路に辿り着くと、周囲の暗闇の中に、再びあの女性が立っていた。
彼女はまるで待っていたかのように微笑んでいた。
美咲は彼女の心の内に触れることができるような不思議な感覚を覚えた。
「私の名前はレア」とその女性は名乗った。
レアは美咲に、「この街には大きな秘密が隠されている」と語りかけてきた。
彼女の声には魅了され、惹きつけられるものがあった。

次第に美咲は、レアの言葉に導かれるように虜になっていった。
彼女は毎晩十字路に足を運び、レアとの会話を楽しみ、彼女の語る街の秘密に耳を傾けた。
美咲はレアに言われるがまま、次第に彼女自身の内なる願望についても語り始めた。

しかし、ある晩、レアは一瞬だけ不気味な表情を見せた。
「美咲、あなたには特別な役割がある。私に従ってきて」と言った。
美咲は一瞬、恐怖を覚えたが、その瞬間には再びレアの優しい微笑みが戻っていた。
彼女はすぐにその恐れを振り払い、自分の選択を誤ってはいけないと考えた。

しばらくして、美咲は奇妙な感情を抱くようになった。
何かが、彼女の中で変わり始めていた。
周囲の人々が彼女のことを不思議そうに見つめ、彼女の存在が次第に薄れていくのを感じた。
美咲は友人たちとの関係が希薄になり、仕事にも行けなくなっていった。
毎晩、レアに会いに行くことが、彼女の全てになっていったのだ。

ある晩、美咲はレアに連れられ、街外れの古い教会に足を運んだ。
教会の中は薄暗く、神秘的な雰囲気が漂っていた。
レアは彼女を中心に占める円陣を作り、彼女に「選ばれし者となる準備をしなさい」と囁いた。
その瞬間、美咲は全身に冷たい感覚を感じた。

「さあ、あなたの力を解き放ちなさい」とレアが言った。
美咲は驚愕し、呪文のようにレアの言葉が耳にこだました。
彼女が手を伸ばすと、周囲の空気が波打ち、何かが彼女の内で覚醒した。
他の影たちが集まり、「彼女を束縛するべきではない」と囁き合う声が聞こえてくる。

その瞬間、美咲はレアの顔を見つめた。
彼女の目の奥に映る冷たさに気づいた。
美咲は自らの選択が誤っていたことを理解し、逃げ出そうとした。
しかし、レアの声が耳に響く。
「もう遅い。あなたは私の一部なのだから」

気がつくと、美咲は十字路の中心で立ち尽くしていた。
周囲の景色は変わり果て、街には誰もいなかった。
美咲はもはや、飽きることのない闇の中で誘われ続けることしかできなくなっていた。
彼女の心の奥にあるレアの声が、永遠に響き渡るのだろう。

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