公園の片隅、夕暮れに染まる空の下、一人の青年、健太は友人たちと別れた後、何気なくベンチに座っていた。
その日は特に何かが起こりそうな不気味な予感が健太を包んでいたが、周囲は静まり返り、ただ風の音だけが聞こえていた。
ふと、彼の目の前に一人の女性が現れた。
彼女の名は明美、健太の大学の先輩だ。
早速、話しかけてくれる明美に心が躍った。
「こんなところで何してるの?」と笑顔で尋ねると、彼女は無言で健太の隣に座った。
「ここに来るのは久しぶりだね。」明美は静かに言ったが、その口調にはどこか違和感があった。
周りの人々の姿が次第にぼやけていき、彼女との会話だけが鮮明に感じられる。
「ねえ、健太。最近は何か変わったことある?」彼女の問いかけに、健太は一瞬戸惑った。
しかし、彼は自分の中で何かが喚起されている気がした。
これまでも明美には不思議な力を感じていた。
ただの先輩ではない、何か特別な存在なのかもしれない。
「特には……でも、最近、心霊スポットに行った友達がいて、やっぱりおかしなことが起こったらしい。」健太は興味本位で話し続けた。
「そこでは、人が消えたり、音が聞こえたりするって。」
明美の目が一瞬光った。
「そのスポット、行ってみたいな。」彼女が言うと、健太は驚いた。
「でも、危険だよ。何があるか分からないし、一人では行けないんじゃ……」
「大丈夫よ、私たち一緒に行こう。」明美は何故か優しい笑みを浮かべた。
まるで、彼を誘い込むようなその表情に、健太の心はもやもやとした不安感に包まれたが、同時に彼女に強く惹かれていた。
その後の夜、健太と明美はその心霊スポットへ向かった。
月明かりの下、不気味な雰囲気漂う場所に足を踏み入れると、次々と不思議な現象が健太の目に映った。
しかし、明美はまるで平然としていた。
そんな彼女を見つめて、健太は恐怖とともに魅せられている気がした。
突然、彼の周囲で何かが変動した。
冷たい風が吹き抜け、耳元でささやく声が聞こえた。
「ここから出るな……。」
「あれ、何?」慌てて視線を周りに向けると、どこからともなく現れた影が彼を包み込むように進んでくる。
明美の姿も見失ってしまった。
「明美!」と叫ぶ彼の声は、風にかき消された。
目の前に佇むその影が近づいてくるにつれ、不安と恐怖が彼の中で渦巻いた。
何かが彼を引き寄せる感覚がした。
逃げようとするが、足がすくみ、動けない。
「健太、こっちに来て!」その時、明美の声が背後から響く。
振り向くと、彼女が手を伸ばして立っていた。
その瞬間、影の存在も消えて、辺りは静寂に包まれた。
彼女のもとへ駆け寄ると、明美は「大丈夫、私が守るから。」と優しく言った。
しかし、その目はどこか異常な光を放っていた。
彼の心に残る不安が拭えないままでいた。
「ここから消えたいの?」明美が言った瞬間、彼女の目が赤く光り始めた。
その瞬間、健太は全身が震え上がった。
「い、いや、僕はそんなの望んでない!」
すると一瞬の内に、視界が暗くなり、健太は意識を失った。
気がつくと、周囲には何もなかった。
もはや明美の姿も、影も、もう何も。
しかし、彼の心には明美の声がずっとこだましていた。
「消えたいのなら、私のそばにおいで……。」
彼は無言でその声に従うことが唯一の選択だった。
そして、彼はその暗闇の中に身を沈めていった。
どれほどの時が経ったのか、健太は周囲でわずかに耳にする声に気づく。
「ここは還る場所だ。どうか、あなたも。」
心の中で、明美と全く同じ目を持つ存在が、自分を待ち続けていた。