「誓いの月影」

薄暗い夜、月が雲の隙間から顔を覗かせる。
田舎町の端にある人気のない神社には、古びた鳥居があり、その下には長いこと忘れ去られたかのような道が続いていた。
春の桜の花びらが舞い散るこの季節、町の若者たちは桜を愛でるために集まっていたが、神社の周囲はひっそりと静まり返っている。

その昔、この神社には「誓いの月」という言い伝えがあった。
恋人たちがこの地で誓いを立て、その誓いが月の力で守られると信じられていた。
しかし、この神社にまつわるあまり良くない噂が広まり、誰も近づかなくなったという。
そして最近、町の若者たちの間で「月の力を借りて、誓いを立てた人の影が現れる」という話がささやかれ始めていた。

春のある晩、浩介という青年は、幼馴染の美咲に対して密かに抱いていた想いを告げることを決意した。
彼はこの神社に向かい、月明かりの下で彼女に愛を打ち明け、二人の関係を新たに誓おうと考えた。

神社に到着した浩介は、静かな雰囲気に圧倒される。
鳥居をくぐると、その先には小さな社が聳えていた。
浩介は心臓が高鳴るのを感じながら、美咲を待つことにした。
また、彼は美咲とこの場所で誓いを立てることで、彼女の心を完全に掴むことができると信じていた。

数十分後、美咲が現れた。
彼女の薄い桜色のドレスが月光に照らされ、美しさが際立っていた。
浩介は彼女を見つめ、心の奥に秘めた言葉を口にしようとしたが、何故か言葉が出なかった。
美咲もまた、何かを感じ取った様子で不安な顔をしている。

「浩介…なんだかこの場所、少し怖いね。」美咲が言った。

「大丈夫。ここで誓ったら、何も恐れることはないよ。」浩介はそう返し、彼女の手を優しく取った。

彼は月に向かって声をかける。
「私たちの誓いを守ってください。」その瞬間、鳥居の向こうから冷たい風が吹き抜け、月明かりが一瞬暗くなった。
美咲の表情が変わり、何かに気づいたようだった。

「浩介、何か…見えない?」美咲が言う。

その言葉の通り、月の明かりから浮かび上がるように、薄曇りの中から一つの影が現れた。
その影はかつてこの神社で誓いを立てた恋人の姿に似ていたが、その表情は悲しみと憎しみに満ちていた。

「誓いを破る者には、月の呪いが待っている。」その声は冷たく響き、浩介は背筋が凍る思いをした。

「浩介、逃げよう!」美咲が叫ぶが、その声は影によって遮られてしまう。
影は浩介の方に向かって近づいてきた。
その存在は彼の心に暗い影を落とし、彼は誓いを立てることすらできず、ただ恐怖に震えた。

一瞬の静寂の後、影は浩介に手を伸ばした。
「私の誓いを無にした者よ、代償を支払え。」

その瞬間、浩介は自分の心の中に抱いていた美咲への想いを振り返った。
彼が誓うことができなかったのは、彼女を失うことが恐ろしかったからだ。
しかし、自分のこの気持ちが、彼女を守るために必要なのだと理解した。

「美咲!僕は君を愛している。ここで誓う、絶対に離れないと!」浩介は心を込めて声を張り上げた。

影はその言葉に一瞬止まったが、次の瞬間、冷たく笑った。
「誓いを立てても、運命は変わらぬ…」

だがその声が響く中、美咲も大きく叫んだ。
「私も誓う!浩介と共に!」彼女の声は月明かりのもと、力強く響いた。

影は驚いたように一歩退き、浩介と美咲の手を強く握ると、二人の意志が月に向かって届いた。
影はその瞬間、悲しみの表情を浮かべ、虚ろな目で月を見上げた。
「誓いは尊い…」と呟きながら消えていった。

静かな夜に戻り、二人はしばらくその場に立ち尽くしていた。
そして、月は再び明るく輝き、彼らのモヤモヤした心を照らした。
浩介と美咲は、互いに支え合うことで、新たな誓いを立てて帰ることができた。
彼らの心には、月の神秘的な力と共に、未来への希望が宿っていた。

タイトルとURLをコピーしました