廃墟となった隠れ家、かつての仲間たちが頻繁に集まっていた場所。
小さなこの屋は、夏になると心地よい風が吹き抜ける場所だったが、今は荒れ果て、窓は割れ、トタン屋根は錆びついていた。
そして、その場所にまつわる恐ろしい話が村の中で語り継がれていた。
高校生の俊介は友人たちと肝試しを企画し、その場所を訪れることにした。
彼は特に肝試しを楽しみにしているタイプで、自らの勇気を試すために、ぜひともこの隠れ家に行きたかった。
仲間たちは彼の提案に乗ることになり、他の数人を誘って、真夜中に現地で落ち合うことを決めた。
夜、月明かりがわずかに差し込む中、俊介と友人たちはそっと隠れ家の前に立った。
悪戯っぽくも緊張感が漂う仲間たちを尻目に、俊介はドアを押し開け、内部に一歩足を踏み入れた。
薄暗い室内には、カビの匂いが立ち込め、過去の面影を感じさせる古びた家具が放置されていた。
「これが噂の隠れ家か…」と呟く俊介。
仲間の一人、優樹は「ここって、何かあったって聞いたけど?」と少し不安げに言った。
しかし、俊介は気にせず先に進み、皆を促した。
部屋の隅に置かれた古い練習道具に目が留まる。
音楽部だった彼らは、コンサートのための練習をここで行ったことがあり、その思い出が鮮明によみがえった。
しかし、話が進むにつれ、その場所には忌まわしき現象が生まれているという言い伝えがあることを思い出した。
「この屋に来た者は、必ず一人が犠牲になるって…」と優樹が口にした瞬間、薄暗い借家の内部に冷たい風が吹き抜け、仲間たちは息を呑んだ。
ほんの数秒後、どこからともなく微かな声が聞こえてきた。
「帰れ…私を見捨てないで…」背筋が凍りつくような声だった。
それでも俊介は、「誰もいないよ。気のせいだ」と仲間を安心させようとしたが、彼自身も心臓が速さを増していた。
部屋の隅に開いたドアが恐ろしい音を立てた。
その時、俊介は思わず友人たちの方へ振り向いた。
彼らはいつの間にか、散り散りに離れていた。
「俊介、あれ見て!」と美咲が叫び、指差す先には影のようなものが動いていた。
それは人間の形をした何かだった。
急いで駆け寄ろうとした俊介だったが、足がすくんでしまい、動けなかった。
友人たちも恐怖に捕らわれ、逃げようとしたが、ドアは閉まっていた。
突然、目の前に居たはずの仲間の一人、和也が消えた。
彼の名前を叫ぶも、応答はない。
さらに不気味な沈黙が続く中、他の仲間たちも戸惑い、焦りが募る。
彼らは恐怖からどうにか逃げ出そうと試みたが、出口は依然として開かず、重苦しい空気が部屋を占めていた。
そして、次第に狐につままれたような感じが広がる中、俊介は気がついた。
彼が友人たちと過ごした楽しい記憶がどんどん薄れていく感覚。
気づけば、その場にいたことさえ忘れかけていた。
まるで原因不明の力に取り込まれ、彼自身もその一部になりつつあった。
「構わない…全てを受け入れよう」と呟くその瞬間、仲間たちの悲鳴が耳に入る。
俊介が振り向くと、美咲と優樹の姿はもうなかった。
それでも俊介はひたすらその場に留まっていたかった。
生き残るための本能が彼を捕らえたのだ。
数日後、村では俊介たちの行方を知るものはいなかった。
ただ、隠れ家には、また新たな仲間たちがその存在を確かめるために足を運ぶことが定期的に繰り返されていった。
廃墟は静かに見守りつつ、彼らが持つ楽しい記憶を取り込んでいくのだった。
忌まわしい法則に従い、一人また一人と犠牲者が増え続けた。