「記憶を喰らう窓」

深い山々に囲まれた小さな村、た。
この村には「滅びの窓」と呼ばれる古い家があった。
その家は長い間無人で、村の人々はその存在を忘れていた。
しかし、ある夏の日、大学生の佐藤健太が村を訪れることにした。

健太は友人と一緒に心霊スポットを訪れる計画を立てており、無人の家の噂を聞きつけて興味をそそられた。
彼は村の人々に止められるも、「ただの噂だろう」と思い込み、家に向かった。
仲間の中には、怖がりな友人の小林もいたが、健太はその気持ちを軽視した。

古びた家は、時間の流れに逆らうかのように静まり返っていた。
ドアがきしむ音を立てる中、健太たちは中に足を踏み入れた。
薄暗い室内は、埋もれた思い出が詰まったような空気で満ちていた。
その時、窓の近くにある一枚の古いカーテンが、何かの気配を感じたように揺れた。

「何だ、あの窓?」小林が指差した。
その窓は、まるで人の目がこちらを見ているようだった。
健太もそれに気づき、興味を抱いた。
窓の外は真っ暗で、まるで別の世界が広がっているかのようだった。

「怖がるなよ、ちょっと見てみようぜ」と健太が窓に近づくと、突然、彼の視界に異様な光景が映り込んだ。
そこには、自分たちのいる家の景色ではなく、過去の村の姿が広がっていた。
人々が笑いながら話し合っている光景、子供たちが遊んでいる姿。
しかし、その顔は徐々に不気味なものへと変わり始めた。

健太は恐怖を感じながらも、目を離せなかった。
その瞬間、窓が大きく揺れ、健太の心に何かが響いた。
「記憶を喰らう者」という声が彼の頭の中で響く。
窓の向こうの光景は、次第に彼の記憶と呼応していく。
幼い日の思い出、愛する人々の顔、次第にそれが滅び、消えていく感覚に襲われた。

「お前の大切なものが、ここで滅ぼされる」と窓から声が聞こえた。
健太はその言葉に震え上がった。
彼の周囲の空気が変わり、小林の顔も次第に青ざめていく。
「逃げよう、もうここにはいられない!」と叫び、小林は後ろに下がった。
しかし、健太はその場から動けなかった。

窓に映るのは、もはや村の姿ではなかった。
黒い影が人々の姿を覆い、悲鳴が聞こえてくる。
その中には、亡くなった村人たちの姿まで見えた。
彼らの手が窓に伸びてきて、健太を引き込もうとしている。
恐怖に駆られた健太は、やっと現実に目を戻そうとした。

しかし、背後の小林の叫びが響く。
「助けて、健太!なんてことだ!」その声が響く中、健太は窓の中に引き込まれそうになった。
彼は必死に抵抗を試みるが、その力は次第に弱まり、やがて視界が真っ暗になっていく。

その後、村の人々は健太たちの行方を知ることはなかった。
村にはただ、古びた家と滅びの窓が残されるのみ。
怪異をもたらす影は、その窓の中で静かに息を潜めている。
新たな訪問者が現れることをただ待っているかのように…。

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