ある都市の片隅に位置する小さな座、古びた木造の建物は、昼間は賑わいを見せていたが、夜になるとその姿を隠すように静まり返っていた。
人々はこの座を敬遠し、噂を耳にする度に足を運ぶことをためらった。
なぜなら、そこには異様な現象が頻繁に起こっていたからだ。
主人公の中村という青年は、かつてこの座で舞台に立っていた演技者だった。
彼はある日、古い舞台セットや衣装を探しに再び座を訪れた。
かつての仲間たちを思い出しながら、彼は心のどこかで懐かしさと不安が交錯していた。
夜の帳が下り、座の扉を開くと、埃にまみれた暗闇が迎え入れた。
座の中は静寂に包まれ、唯一の光源は月明かりだけ。
中村は舞台へと足を運び、その時のことを思い出した。
あの日、彼らは舞台上で夢を描き、観客の拍手に包まれていた。
しかし、その思い出が色あせる中、彼は奇妙な感覚を覚えた。
まるで誰かが彼を見ているようだった。
「ラ」という名の女性が、かつて彼と共に演じた仲間だった。
彼女は何かに取り憑かれたように舞台に立ち続け、その姿を失ってしまった。
中村は彼女のことが気になり、その居場所を探し始めた。
座の奥へと進むにつれ、不気味な雰囲気が漂い、次第に彼の心を重くしていく。
その瞬間、目の前に見たこともない扉を発見した。
扉は古びていても、その装飾は異様な美しさを持っていた。
中村は好奇心から扉に手をかけ、開けてみることにした。
しかし、彼を待ち受けていたのは、過去と現在が交錯する奇妙な空間だった。
その空間には懐かしい記憶が詰め込まれていた。
舞台のリハーサル、仲間たちの笑い声、そしてラの美しい姿。
しかし、彼が目を凝らすと、そこには彼女の姿はなかった。
代わりに、不気味な影が舞台を覆いつくしていた。
中村はその影が彼を睨んでいることに気づいた。
次の瞬間、影が彼を包み込むように動き、彼の意識を引きずり込んだ。
目を閉じると、不思議な感覚が身体を貫き、奇妙な映像が溢れ出た。
中村は知らない間に、舞台に立つラの姿を周囲で見つめているかのようだった。
彼女は由美という別の名前を持ち、全く異なる軌跡を辿っていた。
そして彼女の舞台は、彼を取り込み、成長させるべく設計された罠のように思えた。
中村は次第にその罠に気づき、逃れようとするが、結局は自身がその一部となっていることを認識する。
彼女の代わりに立たされ、彼女の役柄を演じる羽目になっていたのだ。
混沌とした空間の中で、彼は「私は誰か?」と問いかけ、ラの存在を感じる。
彼女の声が耳元で囁く。
「ここは私たちの記憶の座。過去から解放されることはない」と。
その瞬間、彼の心に恐怖が広がっていく。
時間が過ぎるのかどうか分からないまま、一体どれだけの間こうしていたのかわからなかったが、彼は異様な熱気に包まれ、舞台の照明が眩しくなり、周囲の物が歪んでいくのを感じた。
その時、彼は完全にその空間に飲み込まれ、二度と戻れないことを悟った。
中村はかつての仲間たちの laughter や applause が遠くから聞こえる。
しかし、それは不気味な囁きに変わり、彼の心の奥底から解放されることはなかった。
果たして、彼が開けた扉は新たな悪夢の入口であり、そこからの道はもう二度と戻れない目に見えない罠だったのだ。