深い夜の静寂に包まれたある道。
無限に続く暗闇の中、浮かび上がるように灯る街灯の光が、道を幽玄な雰囲気で照らしていた。
この道を通る者はほとんどいない。
なぜなら、この道は「覚ひろ道」として知られており、そこには語り継がれる恐ろしい現象があったからだ。
その道を夜間に歩いた者は、たちまち不気味な「え」の声を耳にすることになる。
その声は、まるで人の囁きのようであり、何かを悲痛に覚えているかのようだった。
そしてある者は、その声に呼ばれることになり、道の奥へと踏み込む運命を辿るのだ。
そんなある夜、大学生の佐藤洋一は、友人たちと別れた後、家に帰るためにこの道を選んだ。
洋一は普段、恐怖心が希薄な方であり、噂には耳を貸さなかった。
しかし、道を歩くうちに、独特な沈黙が彼の心を不安にさせた。
いつの間にか、彼は一人になっていることを感じた。
ふと、背後から微かな声が聞こえた。
「え…」それはあたかも彼を呼んでいるように響いた。
洋一は瞬時に振り向いたが、そこには誰もいなかった。
不気味な静寂に包まれた道に、ただ彼だけが立ち尽くしていた。
心の中に恐怖が広がり、彼はもう一度歩き出した。
進むにつれて、彼の中に一種の強迫観念が芽生え始めた。
「この道は本当に怖いのか？」という疑念が。
しかし、道の奥からまた呼びかけるような声が響いた。
「ええ…助けて…」どこか懐かしさを感じる声だった。
洋一の心に何かが触れる感覚が生じ、思わず惹かれてしまう。
声の主を探し、彼は足を速めた。
するとさらに、見えない何かが彼を引き寄せ、確かに彼に呼びかけていることを実感した。
やがて道の一角で、彼は一点の光を見つけた。
そこには一人の女性の姿があった。
彼女は白いドレスをまとい、その目は悲しみで満ちていた。
彼女の名前は浮という。
浮は、かつてこの道で命を落とした女性であり、彼女の無念な思いが、その道の恐怖の元であった。
洋一はその場に足を止め、彼女の目に吸い寄せられた。
彼女の声は響き、繰り返し洋一の心に訴えかけた。
「助けて…私を忘れないで…」その言葉に、洋一は何かを彼女に伝えたくなる衝動に駆られた。
彼は浮に近づこうとしたが、浮の姿は徐々に霞んでいき、道の奥に消えてしまった。
彼は悲しみのあまり、いつの間にか涙がこぼれた。
彼女が何を求めているのか、理解できないまま、ただ一緒にいてあげたいと願った。
その瞬間、洋一の心に激しい覚悟が生まれた。
「彼女を救うために、何かをしなければならない」。
しかし、その思考が生まれた途端、「呪」のようなものが彼の思考を包み込み、何かが彼を引き留める。
道は深い闇に飲み込まれ、視界が遮られ、彼は完全に孤独になった。
浮は彼の中に眠る記憶を呼び覚まし、自分がこの道で忘れ去られた存在であることを思い出させていた。
彼女は助けを求めていたのか、それとも彼を道に引き込むための存在だったのか。
洋一の胸に迷いが生じた時、彼は夢中で「忘れない」と叫んだ。
その瞬間、道の光が瞬いた。
浮の姿が再び現れ、彼女の表情は徐々に安らかさを帯びてきた。
「ありがとう…」その一言と共に、彼女の姿は消えていった。
洋一は自らの中に何かが変わったのを感じ、覚醒した心でその道を後にした。
夜の静寂が再び訪れ、道は元の姿へと戻った。
しかし、洋一はこの道を知っている。
浮の存在を、そして彼女の願いを心に留め、彼は生きていくことを決意した。
道にはいったい何があるのか、そして忘れられた者たちの想いが響く場所であることを。
