河原のそばにある一つの小さな台。
そこには不気味な伝説が語り継がれていた。
村人たちの間では、「台の上には必ず、過去の記憶が集まっている」と言われ、この場所に近づくことはタブーとされていた。
ある夜、大学生の亮は友人である美咲と夜の散歩を楽しんでいた。
星空が美しい日、二人は行きつけの店からの帰り道に迷い込み、たまたまその台の前にたどり着いた。
亮は好奇心に駆られ、「ちょっと寄ってみようか」と言った。
美咲は戸惑った。
「やめた方がいいよ。ここには何かあるみたいだから。」しかし、亮の興奮に押されて、結局二人は台に近づいた。
その台は古びていて、所々苔が生えていた。
亮は台の上に座ると、「何か面白い物が出てくるかも」と言った瞬間、周囲が急に静まり返った。
すると、台の表面が揺らぎ、まるで水面のように波立ちはじめた。
亮はその現象に目を奪われた。
台の上に浮かび上がったのは、暗い文字で書かれた一つの文だった。
それはまるで過去の出来事を伝えるかのように見えた。
「この台に座った者よ、過去の記憶を繋げという。さもなくば、永遠に世の外れに留まることを忘れるな。」
美咲は恐怖に駆られ、亮の肩を掴んだ。
「やめて、何かおかしいよ!」亮はその文に夢中になり、「どうしてこんなことが…」と言いながら、さらに力を入れてその台に触れた。
すると、次の瞬間、彼の目の前に過去の映像が浮かび上がった。
それは彼の家族や友人たちの映像で、彼の知らない過去の出来事が映し出されていた。
亮はその光景に驚き、次々と映し出される記憶に心を奪われていった。
美咲はその様子を見て、ますます不安を感じた。
「もう帰ろう、亮!」と叫んだが、亮はその声が耳に入らなかった。
過去の記憶が次々と流れ込み、亮は自分がその場から離れられないことに気づいた。
彼は自らの記憶の中で、どんどん深みにはまっていった。
美咲の呼びかけも、次第に聞こえなくなっていく。
その時、映像の中に彼自身の姿が重なった。
何度も後悔した出来事や、時間が過ぎ去ってしまったことの数々が、彼の心を締め付けた。
「もっと家族と過ごしていれば良かった」「友人との別れをこんなに早く迎えなければならなかった」—次々に過去の瞬間が彼を責めたてていく。
亮はその恐怖から逃れるために叫んだ。
「出て行け!もう十分だ!」叫んだ瞬間、映像は消え、再び静寂が戻った。
しかし、彼はすでにその台に囚われてしまっていた。
泣き叫ぶ美咲の姿が見えるが、彼女には亮の声は届かない。
彼は過去の罪や後悔に 心が折れ、体が動かない。
こうして亮は、台の上で自らの過去と永遠に向き合う運命を背負ってしまった。
美咲は亮を救う方法を探し回ったが、彼女もまたその台から一度も目を離すことができなかった。
村から人々が離れていく理由が、彼女には分かり始めていた。
結局、彼女はその夜、完全に記憶を失った。
亮の姿も、その台の影も、村人たちには存在しなくなっていた。
彼らは今、世の外れで、過去の影とともに生き続ける。
台は静かに、ただ一つの真実を受け入れる場所として佇み、次の思い出を待ち続ける。