又は、ある小さな町の端にある無人の展覧会場に、友人たちと共に足を運んだ。
清美と恵介、そして静子の三人は、噂に聞いていた見知らぬ芸術家の作品を見に行くつもりだった。
その展覧会は、以前から存在していなかったかのように空白の日々を経て、突然開かれたものだった。
話によれば、展示されている作品は、観る者の心の内や過去を映し出す「写し絵」と呼ばれるものだという。
中に入ると、薄暗い室内には、中央に大きなキャンバスが並べられ、周囲には様々な小道具や不気味なオブジェが置かれていた。
三人は、先にかけられた緊張感に少し戸惑いながらも、好奇心に駆られてその作品を観始めた。
恵介が「これは本当に怪しいな…」とつぶやくと、清美は「でも、見てみようよ。きっと面白いから」と応えた。
すると、静子が声を上げた。
「これ、私の写真だわ!」彼女が指差したキャンバスには、思い出の一枚がそのまま写し出されていた。
絵の中では、静子が子供の頃に遊んでいた公園の風景が描かれていたが、どこか異様な雰囲気が漂っていた。
彼女の笑顔が不気味に歪んでいるのだ。
「え、本当に?静子、何でこれが!」清美は驚き、怖がった目で彼女を見つめる。
静子は、自分の心を反映しているのではないかと考えた。
この「写し絵」が、ただの芸術作品ではないと直感したのだ。
その後、恵介が目にした作品もまた、彼の過去の記憶を映し出していた。
そこには、彼が幼い頃に亡くした祖父と戯れる姿が描かれていた。
しかし、描かれた祖父の表情は、冷たく、まるで恨みを抱いているかのようだった。
彼は思わず後ずさり、「これはおかしい、何かが間違ってる」とつぶやいた。
「もしかして、この作品は見る人の記憶を写し出すっていうのは本当なの?」静子が言った。
清美はその言葉に頷きを返しながら、自分の番を恐れていた。
次に彼女が見たキャンバスには、自分自身が描かれていた。
しかし、その姿はまるで見知らぬ存在のように、異様に変わり果てていた。
清美は急に嫌な汗をかき始め、心のどこかで恐怖の兆しを感じた。
「私はこれを見てはいけない」と思う自分がいたが、引き寄せられるようにして、その絵を見ることにした。
そこには、彼女の周りにいる人たちが一人ずつ姿を消していく様子が描かれていた。
「まさか…私、誰かを傷つけていたの?」清美は自問した。
彼女は不安に駆られつつ、その場から逃げようとしたが、静子の声が耳に入った。
「清美、ここにいて!」彼女は彼女の手を掴もうとしたが、物の重さに反発され、その瞬間、清美は絵の中に引き込まれてしまった。
いつの間にか、三人はそれぞれの映像に捕らえられ、彼女たちの記憶は異なるキャンバスに再生され始めた。
時間が経つごとに、彼女たちは自らの過去の果てなき苦悩を引きずり出され、独りぼっちの影となっていく。
恵介は「もう、冗談だろ!」と叫びながらも、その声は空気に消えてしまい、静子は不気味なキャンバスに飲み込まれ、二度と戻ってこなかった。
結局、展覧会場には、三人の空虚な姿が残るだけだった。
人々はそれぞれの記憶の深淵に引きずり込まれ、この超現実的な「写し絵」の影響の中で、彼らの物語は永遠に閉ざされてしまった。
現実の中で失われた彼らの足跡は、誰にも知られず消えていくのだった。