祖父が昔住んでいた古い家には、誰も知らない秘密があった。
私の名前は翔太、そしてその家に住んでいたのは、私の祖父、健二だった。
健二は早くに亡くなり、家はその後、誰も住むことなく放置されていた。
ある日、両親が出かけている隙に、私はその家を訪れることにした。
家に足を踏み入れると、薄暗く埃をかぶった空間が広がっていた。
家具は朽ち果て、かつての生活の痕跡がそこかしこに残されている。
特に目を引いたのは、祖父が使っていたという古びた机だった。
机の上には、いくつかの古い本が散らばっており、その中には謎の計算式が書かれたメモもあった。
私は興味をそそられながら、その計算式を眺め始めた。
その時、ふと気がつくと、どこからかかすかな声が聞こえてきた。
「翔太、翔太……」私は驚き、声のする方を振り返ったが、誰もいない。
ただ静寂が広がるだけだった。
だが、心の奥に不安が広がり、何かが私を呼んでいるような気がして、再び計算式に目を戻した。
それは他の計算とは異なり、一見無意味に見える数字の羅列だった。
しかし、その中のいくつかの数字が不気味に響き、私の心に引っかかった。
その数字は、まるで何かの暗号のようだった。
気になった私は、計算を進めることにした。
何度も繰り返し計算し、コンピュータに入れてみる。
気がつくと、時計の針はどんどん進んでいて、気付けば辺りは薄暗くなっていた。
それでも計算は続き、私は無心で入力し続けた。
すると、突然、机の上で一冊の本が開いた。
無造作に頁がめくれ、そこには祖父の顔が映っていた。
驚いた私は思わず歓声を上げたが、その瞬間、周囲の温度が急激に下がった。
震えながらも本をつかむと、そこには祖父からのメッセージが記されていた。
「計算を続けよ」という言葉とともに、彼の死後の生活について書かれていた。
どうやら祖父は、死を迎える前に何かを成し遂げたかったらしい。
それは、彼の人生の中で解決せねばならなかった数式だった。
次第に、私は不気味な雰囲気に飲み込まれ始めた。
再び声が響く。
「翔太、助けて、助けて……」それは祖父の声だった。
私は恐怖心を押し殺し、計算を続けた。
無限に続く計算の中で、私はその声に導かれ、祖父の思いを理解し始めた。
ある瞬間、計算が完了することに気がついた。
しかし、私の背後には冷たい視線が感じられ、振り向くと誰もいない。
しかし、確かに誰かの存在を感じた。
祖父は今もこの家に留まり、自分の復讐を果たすために数式を求めているのだ。
その瞬間、私は計算結果が祖父の望んでいた「犠」の一部であることに気づいた。
それは祖父が生前に求めた、彼の人生を整理するための算式であり、彼の供養のための道だった。
計算結果を声に出すと、急に周囲が静まり返った。
祖父の声が再び聞こえたが、今度は感謝の言葉だった。
「翔太、ありがとう……」それと同時に、周囲の気配が和らぎ、家の中が明るくなった。
祖父の姿は見えなかったが、彼の何かが解放された気がした。
私はそのまま古い家を後にし、祖父の思いを胸に刻んだ。
以来、あの家は不気味な暗い雰囲気を失い、ただの朽ちた建物として静かに佇んでいる。
あの夜の出来事は決して忘れられない。
祖父が私に託した計算は、彼の生涯の最後の課題であり、私自身の運命に深い影響を与えていたのだ。
