修は、友人から薦められた不思議な場所、架という名の村を訪れることになった。
修は都会の喧騒を離れ、静かな場所でリフレッシュを求めていた。
しかし、架はただの田舎ではなく、古くから「言葉を奪う村」として知られている場所だった。
村に足を踏み入れた瞬間、修は何か異様な雰囲気を感じた。
太陽の光が透けるように村の道を照らしていたが、その光景の美しさとは裏腹に、村の人々の目には不安と恐れが宿っていた。
修はその理由を知っている者がいないかを尋ねたが、誰もが沈黙するばかりだった。
夕方、修は村の若者の一人、健太と一緒に不気味な神社に行くことにした。
神社は村の奥にひっそりと佇んでおり、色褪せた鳥居が静まり返った空気を感じさせた。
そこに辿り着いた時、修は神社の周囲を取り囲む木々が異常に大きく、まるで彼を見張るかのように感じた。
「ここには、昔から言葉を奪う現象があるんだ」と健太が話し始めた。
「誰かがこの神社に足を踏み入れると、その者の声や言葉が消えてしまう」
修はその話を信じることができなかった。
しかし、興味が勝り、神社の中に一人で最初に入ることにした。
神社の中は思ったよりも広く、空気が冷たく感じられた。
心臓が高鳴る中、修は祭壇に近づいた。
そこには古めかしいお札や、お守りが置かれている。
何か不気味な香りが漂ってきた。
すると突然、背後から「戻れ!」という声が聞こえた。
驚いた修は振り返ったが、誰もそこにはいなかった。
恐怖に駆られながらも無視し、さらに祭壇に近づくと、彼の視界の端で青白い光が瞬いた。
目を凝らすと、その光は祭壇の上の一枚のお札から放たれていることに気づいた。
興味をそそられ、修は手を伸ばし、そのお札に触れてしまった。
瞬間、頭の中に耳をつんざくような音が響いた。
彼は恐ろしい感覚に襲われ、周りの音が徐々に消えていくのを感じた。
言葉が喉に詰まり、一切の音を失っていく。
気が付くと、彼はただの無音の空間に立っていた。
驚愕と恐れが交錯する中、修は自分が言葉を失ったことを理解した。
健太のことを思い出し、外にいるはずの彼に向かって心の中で助けを求めるが、それすらも言葉にできない。
修は必死に神社の外へ向かおうとしたが、道が見えなくなり、何度歩いても同じ場所に戻ってきてしまった。
そこに、再び青白い光が現れた。
それは先ほど触れたお札と同じ光で、修の視線を引き寄せる。
しかし、この光はどこか脅迫的で、彼の意識を飲み込んでいく。
修は倒れ込み、周囲の景色がどんどんと曖昧になり、深い暗闇に引きずり込まれる。
その瞬間、彼は健太の声を聞いた。
「修、もう戻れ!」その声は彼の心の中に響き、まるで彼の言葉を代弁するかのようだった。
修は全てを取り戻そうと必死になり、心の中で言葉を叫ぶ。
「私はここにいる!助けてくれ!」
次の瞬間、修は目を覚ました。
彼は神社の前に倒れ込んでおり、健太が心配そうに彼を見下ろしていた。
無事に言葉を取り戻したかのように感じるが、それでも心には不安が残っていた。
その後、修は架を後にした。
しかし、心の奥に残った恐怖は消えることはなく、時折耳鳴りがすることがあった。
彼は思う、言葉を失った経験が、何か大切な教訓を彼に与えたのかもしれないと。
言葉は生きていく上での重要な手段であり、簡単に消えてしまうものではないということを。
修はそれを心に刻むことにした。