「触れた記憶の亡霊」

静かな街の片隅に、古びた廃墟がひっそりと佇んでいた。
この廃墟はかつての小学校であり、今では誰も近寄らない場所となっていた。
周囲の人々は、「そこに触れてはいけない」と口を揃えて警告した。
しかし、興味を持った高志と名乗る青年は、都市伝説の真相を確かめるために、思い切って廃墟の中へと足を踏み入れることにした。

高志は、廃校の入り口を潜ると、静寂に包まれた闇の中へと進んで行った。
内部は埃まみれで、時間が止まったかのような空間が広がっていた。
彼の心には不安が募ったが、好奇心がそれを上回り、さらに奥へと進んでいった。

ふと、彼は校舎の片隅に、何か隠れているような気配を感じた。
近づいてみると、そこには色褪せた黒板と、それに立ち乗せられた小さな重石があった。
奇妙なことに、それは古い映写機のようなもので、テープが巻かれていた。
思わず手を伸ばし、触れてみると、瞬間、冷たい感触が指先を駆け抜けた。

その瞬間、高志の頭にさまざまな映像が押し寄せてきた。
彼はまるで時空を超えたような感覚に囚われ、廃校がかつての姿を映し出していた。
教室で楽しそうに笑う子供たち、先生の優しい声、校庭で遊ぶ無邪気な姿。
彼は目を丸くし、その光景に呆然とする。
だが、すぐに何かが彼の肩を触れた。
振り返ると、そこには薄汚れた服を着た少年が立っていた。

「助けて…僕の名前を忘れないで…」少年は高志に向かって呟いた。
高志は戸惑いながらも、その声がどこか懐かしく感じられた。
少年は小さな手を高志に差し伸べる。
触れると、冷たさが彼の体に走る。
そしてその瞬間、衝撃的なことが起こった。

廃校の壁が揺れ、重石のうえにあったテープがはずれて地面に落ちると、周囲の空間が歪みはじめた。
「折れた運命」が形になったかのように、映像が乱れ、高志は吸い込まれるようにして、その中に引き込まれていった。

その瞬間、彼は別の場所に立っていた。
そこは運動場の真ん中で、周りにはたくさんの子供たちが無邪気に遊んでいる。
だが、周囲は変わり果てた様子で、奇妙な現象が立ち現れた。
遊んでいる子供たちの顔は、いつの間にか虚ろになっている。
彼らは高志を見つめ、その目には「忘却」の色が宿っていた。

高志は冷静さを失い、逃げるように走り出した。
しかし、後ろには子供たちが追いかけてきて、かつての笑顔は消えていた。
その無表情な顔が次第に近づいてきて、彼の心に恐怖が押し寄せる。
逃げたところで、彼らに触れてしまったことで運命が封じられ、その影響が彼にまで及んでいた。

彼はこの瞬間を逃れようとしたが、現実が引き裂かれ、「折れた運命」がその手を取り込んでいく感覚に捉われた。
高志はついに力尽き、膝をつく。
すると少年が再び現れ、「僕の名前を…忘れないで」と囁いた。

その瞬間、高志は目が覚めた。
彼は廃墟の中に倒れ込み、周りを見回した。
今、彼は何が起こったのか、何を触れてしまったのか理解できぬまま、ただ慌ててその場を離れた。
廃校の外に出ると、背後から「助けて…」という声が微かに聞こえたような気がした。
彼は振り返ったが、もう何も見えなかった。

それ以来、高志は街を歩くたび、どこからか少年の声が聞こえてくるような気がして、それが彼の頭から離れなくなった。
時折、再びその廃校へ戻り、少年を助けようと試みるが、いつの間にか彼の記憶の中でその少年の名前は失われていた。
猫のように名を呼ぶ声がこだまする一方で、高志はその名すらも思い出せないまま、「折れた運命」に飲み込まれた。

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