ある日の夕方、大学生の健太は友人たちとキャンプに出かけることにした。
目的地は、古びた神社がある静かな山の中。
聞いたことのある噂では、その神社の奥に「触れることで過去の思い出が蘇る」と言われる不思議な石があるという。
しかし、その石は「触れた者の後悔を呼び戻す」という言い伝えもあったため、勇気を出して行くことにした。
キャンプの日、健太たちは神社のすぐ近くでテントを張り、夕食を囲みながら賑やかに過ごした。
夜が深くなるにつれ、皆に疲れが見えてきた頃、健太はその「触れる石」のことを思い出した。
興味をそそられた彼は、友人たちを誘って神社へ向かうことにした。
暗い森の中を進み、やがて神社にたどり着くと、月明かりに照らされた石が静かに佇んでいた。
その石は黒い色をしていて、まるで何かを訴えるかのように光っていた。
友人たちは不安そうな顔をしながらも、健太に続いて石の前に集まった。
「これが噂の石だな。触ってみるか?」健太が言うと、友人たちは神妙な面持ちで頷いた。
最初に手を伸ばしたのは、友人の直樹だった。
直樹が石に触れた瞬間、彼の表情が驚きに変わった。
「おい、これ…! あの日のことだ!」彼は目を見開き、過去の記憶に囚われたように呟いた。
どうやら、彼は大切な人との別れの瞬間を思い出しているらしい。
続いて、他の友人たちも石に手を触れると、それぞれの後悔や忘れられない出来事が浮かび上がり、彼らの顔は次第に曇っていった。
「戻って考えさせられるな…」と美咲が言った。
その言葉と共に、彼女は涙を流し始めた。
彼女は、昔の恋愛を思い出したのだ。
皆、共感するように静かに頷いた。
石の魔力にかかっているようで、どんどん暗い記憶が掘り起こされていく。
健太もその雰囲気に引き込まれ、恐る恐る石に触れた。
瞬間に、彼自身の深い後悔が浮かび上がってきた。
大切に思っていた父との最後の会話がよみがえり、もっと話しておけばよかったという胸の痛みが彼を襲った。
数年前の事故で亡くなった父の顔が、今も心に焼きついている。
彼はそのことを受け入れることができなかった。
突然、周囲が静まり返ると、石が震えたように感じた。
強い風が森を駆け抜け、月明かりが石を照らす。
その霊的な雰囲気に、恐怖を感じた健太は、急いで石から手を離した。
だが、彼の心の奥には、後悔の影が残っていた。
友人たちも次第に恐怖を感じ始め、全員が石から手を引いた。
その瞬間、健太の心の底に重くのしかかるような感覚が襲った。
罪悪感や後悔に満ち溢れ、彼は自分がその石に触れた代償を感じ始めた。
「帰ろう、もう十分だ。」健太は言い、みんなを連れて神社を後にした。
しかし、石に触れたことにより、彼らの心には消えぬ影が残った。
その後、彼らの生活は少しずつ変わっていく。
過去の後悔が、何かを気付かせるように影響を及ぼしていた。
その後の数週間、健太は夢の中に父の姿を見るようになった。
話しかけてくれる父に戸惑いながら、彼はその存在を助けてもらおうともがいた。
だが、その顔を見るたびに、悲しみに襲われ、決して戻らない過去を悔やむ夜が続いた。
健太は、あの日の神社に再び行くことを決めた。
しかし、戻った時、石は静かに佇んでいたが、何も起こらなかった。
過去を思い出させたその石が、自らの記憶を消してしまったかのようで、空虚な体験だけが残っていた。
彼の心の中の後悔は、永遠に付きまとうのだと、静かに悟った。