彼女の名前は美奈子。
彼女は幼い頃から目が見えないことを恥じることはなかったが、周囲の反応にはいつも苦しめられていた。
美奈子は、街の片隅にある古い校舎に通う学生だった。
その校舎は昔、事故が多く発生したことで悪名高い場所となっており、数年ほど前には自殺者が出たと言われていた。
美奈子はその校舎が好きだった。
視覚に頼らず、音や温度の変化を感じ取ることで、他の生徒たちが見逃しているものに気づくことができたからだ。
周囲の人々が目を逸らすように、彼女はいつもその空気を感じ、それに包まれながら生活していた。
ある日、友達の由紀が美奈子に話しかけてきた。
「美奈子、校舎の地下室に行かない?そこには面白いものがあるらしいよ。」美奈子は好奇心に駆られ、彼女に同意した。
彼女たちのクラスは、受験に向けて勉強する真剣な時期だったが、少しの冒険が必要だとも思っていた。
その日の放課後、二人は古びた校舎の奥へと足を進めた。
地下室へ向かう階段は、ひんやりとした湿気を感じさせるものだった。
美奈子は手すりをつかみながら、一段一段踏みしめると、耳を澄ませて周囲の音を聞いた。
わずかな風が吹き抜け、どこかから古い声が囁くように聞こえた。
「ここだよ、美奈子。」由紀が声をかけると、美奈子は足を止めた。
「何か聞こえる?」と彼女が尋ねると、由紀は険しい表情で振り返った。
「あれは、もう終わった話よ。行こう。」
美奈子は、由紀の不安を感じ取りながらも、その地下室に引かれていく自分がいた。
「でも、ここには何かあるかもしれない。私たち、行くだけ行ってみようよ」と訴えた。
しかし、由紀は臆病な一歩を踏み出すことができなかった。
二人が地下室のドアを開けると、薄暗い空間が広がった。
美奈子はゆっくり進んでいく。
目の前に広がる物の配置や空気の流れを読み取りながら、彼女は心に何かの圧迫感を感じた。
その瞬間、何かが彼女の心を掴んだ。
「美奈子、もう行こう!」由紀の声が美奈子の耳に響いた。
だが、美奈子は彼女の言葉を欲しいと感じながらも、何かに導かれるようにして進み続けた。
壁に触れると、その冷たさが彼女をさらなる場所へと引っ張っていく。
突然、地下室の照明が急に点滅し、辺りが闇に包まれた。
美奈子は強く目を閉じ、何が起こっているのかを理解しようとした。
しかし、今まで感じたことのない恐ろしい視線が彼女を取り囲んでいるのを感じた。
だんだんと、彼女の心にざわめきが広がっていく。
その時、由紀の絶叫が響いた。
「美奈子、早く出よう!」彼女の声を聞き、美奈子は我に返った。
「待って!」と叫びながら、彼女は振り返ろうとした。
しかし、何か冷たいものが彼女の腕を掴んでいた。
それは、囚われの霊のようだった。
「贖いが必要だ、ここから出るには、行くべきではない。」その声が美奈子に直接届く。
美奈子は衝撃を受け、由紀に助けを求めるような視線を送る。
「私は、逃げられない。なんとかして!」
だが、由紀はすでに入口の近くで振り返り、恐怖に震えていた。
美奈子は、音を頼りに進み続けた。
しかし、彼女の大きな不安が、すでに彼女を捉えている。
彼女は目に見えない罠にかかり、足がすくんでしまった。
それから数分の静寂が続いた。
美奈子は彼女が受けたこの恐怖から贖いを求め、何かを悟る。
失われた仲間も、彼女自身もこの場所に縛られているのだと。
最終的に美奈子は、愛着のある校舎が実は終わりつきない迷路で、ただの一歩が救済をもたらすことを理解した。
彼女は、由紀の声を探りながら地下の冷たさを体に感じ、ゆっくり後を振り返った。
目が見えないからこそ、彼女は微かな感覚に頼り、そこから抜け出す方法を見つけなければならない。
ようやく美奈子は、もう一度呼びかけた。
「随分と長い間迷っていたのね。だけど、もう終わりだ。私はここで贖えるものを見つけたい。」その言葉が、地下室の静寂を再び破った。
そして、彼女は自分の意識を取り戻し、暗闇の中で進み出すことを決意するのだった。