ある秋の夜、明美は友人たちと一緒に、展覧会に訪れた。
普通の美術館とは違い、非常に奇妙なテーマの展覧会であった。
『目』をテーマにした展示物が並んでおり、ありとあらゆる『目』の描写が飾られていた。
虫の目、鳥の目、そして人間の目。
その中には、目が描かれた油絵や彫刻、さらには写真作品まであった。
明美はこの展覧会が気に入っていたが、徐々に不安が募った。
展示物の中に、とてもリアルな目を持つアートがあった。
それはまるで、生きているかのように感じられた。
明美はその目が、彼女をじっと見つめているように思えたのだ。
友人たちはその目について盛り上がっていたが、明美はその一つ一つの目が語りかけてくるようで、不気味だった。
展覧会を見終えた頃、明美は一人でトイレに立った。
トイレの鏡を見ると、後ろの廊下にぼんやりとした影が見えた。
慌てて振り返るが、誰もいない。
彼女は深呼吸をして、気のせいだと自分に言い聞かせた。
だが心の奥に不安が付きまとい、彼女は急いでトイレを出た。
その晩、明美は奇妙な夢を見た。
目がたくさん並ぶ暗い部屋に、彼女は閉じ込められていた。
目は彼女を見つめ、動きを追いながら、まるで何かを伝えようとしているようだった。
彼女はその視線に耐えきれず、身を縮めた。
すると、目の一つが口を開いた。
「私たちはあなたの夢に入り込みたい。」と囁いた。
目の言葉に驚いた明美は、どうしていいのかわからず、ただ恐怖で震えていた。
ようやく、彼女は声を出すことができた。
「い…いいえ!私は夢を見ているだけのはずだ!」しかし、その言葉は目たちの耳には届かず、彼女を包み込むように迫ってきた。
目たちは「私たちはあなたが忘れたことを知っている」と言った。
明美は思わず顔をしかめた。
自分が何を忘れたのか、全く心当たりがなかった。
だが、その言葉は彼女の心に穴を開け、無視できない不安として広がった。
次の日、明美は友人たちと再び展覧会に向かうことになった。
しかし、明美の心には何か不穏なものが影を落としていた。
展覧会の会場に近づくにつれ、彼女は昨晩の夢の内容が現実になりそうな気がした。
目たちが、彼女の心に入り込んでくるような感覚に襲われた。
展示を再び見始めると、明美はその目たちが、今度は自分自身を見透かしているように感じた。
「何を忘れたのか、私を解放して」と無意識に口にしていた。
目たちは静かに返事をすることなく、ただ見つめ続けるばかり。
彼女は恐れを感じ、再び展示室を出ることを決意した。
帰宅後も、明美はその夢の影響から逃れられなかった。
翌朝、彼女は再び夢を見た。
目のない暗闇の中で、人々の声が耳に届いていた。
「私たちを思い出して…」誰かがそう呼んでいる。
混乱と恐怖に駆られた明美は、目を覚ました時、自分の中に何かが消え去ったように感じた。
次第に、展覧会の記憶が薄れていき、名前すら忘れ去られていった。
しかし、ふとした瞬間、彼女は夢の中に現れる目たちの声を再び思い出すことになる。
「あなたは私たちを忘れている」そう囁く声に、明美はただ、ついに思い出そうとすることができなかった。
自分に何が起こったのか。
展覧会で目にしたものは、彼女の記憶を奪ってしまったのかもしれない。
目は、見つめるだけではなく、見せることもあるのだと、彼女は理解した。
明美は今でも夢の中で目たちに悩まされ続けているのだ。