田舎のある村に、雅人という若者が住んでいた。
彼は普段から忙しい都会の生活を離れ、時折この地に帰っては心の平穏を取り戻していた。
この日は、村の外れにある広い野原で、友人たちとキャンプをすることにした。
夜が更けるにつれて、風が涼しく感じるようになり、天には無数の星が輝いていた。
笑い声が絶えないキャンプを楽しむ中、雅人はふと何か違和感を覚えた。
周囲の静寂の中で、視線を感じたのだ。
彼は振り向いたが、当然、そこには誰もいなかった。
ただ風が草を揺らしているばかりだった。
それでも、なんとなく視線が引っかかる。
何度もふり返り、目を凝らして周囲を見渡したが、何も見つからなかった。
しかし、その感覚は次第に強くなり、まるで誰かが自分を見つめているかのようだった。
その晩、彼は不思議な夢を見た。
夢の中で彼は野原に座っていた。
周りはいつもの風景とは異なる色合いで、青と赤の光がちらちらと揺れている。
夢の中で彼は、何か不思議な物に引き寄せられるように動き出した。
進むほどに、背後で誰かの視線を感じ、振り返ると、一人の少女が立っていた。
彼女は無表情で、まるで何かを待っているかのようだった。
「君は、誰…?」と雅人は声をかけるが、彼女は一言も返事をしなかった。
夢の中の少女はただ、彼に静かに目を向けていた。
彼はその目の奥に何か悲しみや怒りを感じたが、その正体を掴むことはできなかった。
夢から醒めた時、雅人は心臓が早鐘のように打っているのを感じた。
彼は友人たちを起こして、その夢のことを話したが、誰も彼の話を気にも留めなかった。
ただの夢だと笑い飛ばされた。
雅人は一人、気持ちが落ち着かず、再び野原に出てみることにした。
夜の静けさに包まれた野原で、彼は再度視線を感じた。
今度ははっきりと、背後から迫ってくる視線だ。
振り返ると、あの少女がいた。
彼女は野原の真ん中に立ち、冷たい夜風に揺れる髪を持っていた。
「どうして、またここにいるの?」雅人は思わず疑問を口にした。
彼女は言葉を発せず、ただ彼の目をじっと見つめ続けた。
その目はまるで彼に何かを訴えているようだった。
雅人は思わず目を逸らすことができなかった。
彼女の目を見つめていると、自らの心の奥底が引き裂かれそうな感覚に襲われた。
「何を求めているの?」雅人は思わず声を張り上げた。
瞬間、少女は柔らかく微笑みながら、指先で何かを指し示した。
その先には、土の中に埋まった何かの物の様子が見えた。
土がうっすらと盛り上がり、そこからは微かに金色の光が漏れている。
「それを掘り出してほしいの?」雅人は思った。
彼はその光に引き寄せられるように、土を掘り始めた。
すると、土の中から出てきたのは、一つの古びた小箱だった。
興奮しながら蓋を開けると、中には一枚の写真が入っていた。
彼はそれを手に取った。
それは、彼が見たことのある少女の写真だった。
写真の中の少女は、今立っている彼女と同じ服装をしていた。
しかし、その表情は微笑みではなかった。
どこか悲しげで、目には何か未練を抱いているように見えた。
彼は背筋が凍りつくのを感じた。
「あなたは、何を待っているの?」彼は思わず声を漏らし、再び少女に目を向けた。
しかし、少女はいつの間にか姿を消してしまっていた。
彼は再び一人きりになり、肝を冷やしながら薄明かりの中でその写真を見つめていた。
その夜以降、雅人はもうこの村には戻らなかった。
彼の心には、少女の目が焼き付いて離れなかった。
そして、あの野原にある小箱のことを思い出すたびに、彼は心の中で何か大切なものを失ってしまったかのように感じていた。
今でも時折、彼は夢の中で少女に呼ばれているような感覚を覚えることがあった。
彼女の視線は、その後も彼の心を離れずにいるのだった。