静かな秋の夜、松本翔太は友人の佐藤と共に、山奥にある廃村を訪れた。
村の伝説によれば、かつてこの村には「見えない者たち」が住んでいたと言われており、彼らは夜になると人間の心に入り込み、恐怖や不安を煽ってくる存在だった。
二人は刺激を求めて、この村でキャンプすることにした。
夜が深まるにつれて、周囲は一層静寂に包まれ、風の音さえも感じられなくなった。
星空の下、焚き火を囲んで笑い合う彼らの声は、いつしか小さな村の雰囲気に混じるように響き渡った。
佐藤が焚き火を眺めながら、村の伝説について話し始めた。
「この村に住んでいた人たちは、見えない者たちの声を聞くことができたんだ。彼らは時々、村人たちに何かをさせていたというけど、その代償は大きかったらしい。弟や妹、果ては親をもそしてその者たちの心を奪ったとも言われている。」翔太は不安がよぎったが、友人の話を楽しんでいるふりをしていた。
その時、ふいに背後から冷たい風が吹き抜け、翔太は思わず振り返る。
何も見えない。
ただの暗闇が広がっているだけだった。
不気味に思っていると、佐藤が急に目を凝らして言った。
「見て、あそこに明かりが見える。」
翔太は目を凝らした。
廃村のはずれに、不自然な光がちらちらと揺れている。
それはまるで、誰かが懐中電灯を持って歩いているかのようだった。
翔太は好奇心に突き動かされ、「行ってみよう」と言い出した。
二人はその光を追いかけて歩き始めた。
道は次第に険しくなり、木々が生い茂る中で、彼らは次第に迷っていった。
「なんだか道を外れている気がする」と翔太は不安を口にした。
しかし佐藤は「いいから、もう少し進もう!」と興奮気味に言い続けた。
その光の先に、ちらほらと古びた家々の影が見えてきた。
村の入口にたどり着くと、そこにはかつての住人たちの痕跡が残っていた。
しかし、村は不気味なほど静かで、まるで時間が止まったかのようだった。
翔太は恐怖感が高まり、帰ろうと言い出したが、佐藤は光を求め続けていた。
ついに二人は、一つの民家の前に立ち止まった。
ドアがわずかに開いていて、その隙間から光が漏れており、彼らを誘うように揺れていた。
佐藤は「入ってみよう!」と言い、ドアを開ける。
翔太は躊躇したが、好奇心には抗えず、後に続くことにした。
民家の中は薄暗く、急に重たい空気が彼らを包んだ。
光は奥の部屋から放たれていた。
翔太が奥の部屋へ進むと、そこには無数の古い人形が並び、中央に怪しいろうそくが立っていた。
そして、その周囲には奇妙な文字が刻まれた紙が散らばっていた。
翔太は不安を感じ、立ち去ろうとした。
しかし、急に哀しげな声が耳に響く。
「翔太、僕を助けて…」それは佐藤の声だった。
彼は部屋の隅に立っており、目は虚ろになっていた。
「見えない者たちが、僕を離さない…」
翔太は恐れを抱えながら、「佐藤、何を言っているんだ!」と叫んだ。
しかし、佐藤は無表情のまま、ゆっくりと手を伸ばしてくる。
「翔太、代償を払おう。お前の心を差し出せば、僕は助かる…」翔太は混乱し、その場から逃げ出そうとした。
その瞬間、暗闇が彼を包み込み、次々と見えない者たちが現れ、彼の心を掴もうと伸ばした。
翔太は絶望感に襲われながら、その場から逃げ出し、暗闇の中を必死に駆け抜けた。
気がつくと、村を脱出し、一人で焚き火のところに戻ってきていた。
佐藤の姿はもはやそこにはなかった。
翔太は焚き火の前で震えながら、あの村の恐怖が今でも心の奥に焼きついていることを実感した。
彼は決して友人を救えなかった。
その代償が、今の自分には重くのしかかっている。
心の奥底に潜む恐怖は、夜ごとに再び目を覚まし、彼を苦しめ続けるのだった。