東京の片隅に古びた団地があった。
住人たちは少なく、寂れた雰囲気が漂っている。
そんな団地の一室に、佐藤という名の若い男性がひとり暮らしていた。
彼は普段は大人しいが、少し好奇心旺盛なところがあり、特に不思議な現象や都市伝説には目がなかった。
彼が住んでいる部屋も、他の住人に比べて奇妙な噂があった。
ある夜、佐藤は散歩がてら団地の中を歩いていた。
薄暗い廊下を歩くと、不意に彼の視界に一筋の光が飛び込んできた。
まっすぐに伸びる光は、まるで目の前に住む誰かを呼び寄せるかのように、彼を誘っているようだった。
光に導かれるように進むと、その先には古びた扉があった。
ドアの前に立った佐藤は、「合」の字が掘られた古い木製の扉を見つめた。
彼は一瞬躊躇したが、好奇心に負けて扉を開いた。
中には、あまりにも多くの「線」が引かれた壁があった。
赤や青、黒の線が交錯し、小さな目のような模様が無数に散りばめられている。
佐藤は、不気味さの中にどこか惹きつけられるものを感じた。
次の日、彼はその扉を何度も思い出し、ますます興味を抱くようになった。
彼は「線」のある場所が何を意味するのかを知りたいと、再びその扉の前にやってきた。
別の住人に尋ねても、誰もその部屋については語らなかった。
しかし、彼は運命的な何かを感じていた。
数日後、夜中に突然目が覚めると、彼の脳裏には「断」という言葉が浮かんだ。
その瞬間、彼は体が動かせなくなっているのに気づいた。
まるで目に見えない力が彼を押さえつけているようだった。
彼は焦りながらも何とか体を動かそうと試みたが、力は加わるばかりだった。
翌朝、彼は恐ろしい夢を見ていたことを記憶していたが、夢の内容ははっきりとは思い出せなかった。
しかし、その日以来、彼は目の前に現れる「線」とそれに絡む影に苦しむことになった。
それはまるで誰かが彼の周りに自分の存在を示すために「線」を引いているかのようだった。
その週末、再度の好奇心から佐藤は、あの古い扉の部屋へ向かった。
扉を開けると、今度は「目」が彼を見つめていた。
それぞれの「線」の先には、無数の目があった。
彼は恐怖を感じ、後退りしたが、暗い部屋からの声が心の奥に響いた。
「合、の、目、断。」
その声を聴いた瞬間、彼は自分自身の過去を思い出した。
彼は人との関係がうまく築けず、いつも一人でいることを選んでいた。
それが「断」を生み出し、孤独を招いていたのだと気づいた。
彼は思い切って耳を澄ませ、「線」を目に焼き付けることにした。
そして、心の中で自分自身と向き合う決意をした。
「これまで怖れずに人とつながりたい」と思った瞬間、部屋の線は光を放ち始め、目たちは優しく微笑みかけてきた。
その場面は幻想的で、彼はその光に包まれているうちに、いつの間にか意識を失った。
次に目を覚ましたとき、彼は警察の部屋の前にいた。
あの扉も、その中の異様な現象も、すべてはきっと夢だったのだと思った。
しかし、心の奥で確かに変わったことを感じていた。
孤独を断ち切り、彼は新たな一歩を踏み出す決意を固めていた。
「合」の目を知った彼は、これからは人との関係を大切にし、彼らと「線」を結ぶことを心に誓った。