トンネルの奥には、村人たちが語り継ぐ恐ろしい話がある。
それは「みる」という名の現象に関わっていた。
このトンネルは、長年にわたり通行止めになっていたが、最近になって封印が解かれ、多くの若者たちがその中を探検するようになった。
ヒロシという名の大学生は、友人たちと共にそのトンネルに挑むことにした。
彼は好奇心旺盛で、怖い話を聞くことが好きだった。
しかし、実際のトンネルは、予想以上に不気味だった。
薄暗く、湿った空気が漂い、足音が反響する中で、彼らはさらに奥へと進んでいった。
トンネルの中には、無数の落書きがあり、いくつかには「みる」という言葉が書かれていた。
友人たちはその意味を尋ね合ったが、誰も明確に答えられなかった。
しかし、ヒロシはそこに何か特別な意味を感じた。
「これが村の話と関係しているのかもしれない」と考え、自ら調べてみることにした。
やがて、トンネルの奥深くに足を踏み入れると、奇妙な光景が彼らの目に飛び込んできた。
そこには石の碑があり、古びた文字が彫られていた。
それは「た、の、れ」と書かれていた。
不気味な存在感が漂う碑を前に、ヒロシは思わず足を止めた。
「みる」という現象についての噂が彼の耳に入っていたが、実際には見えぬものを見てしまうという恐怖のことだと聞いていた。
それは、このトンネルに入った者が直面する運命であり、過去に消えた者たちの思いが交錯する場所だとも言われていた。
その時、突然、トンネルの空気が重くなり、背筋が凍るような感覚がヒロシの体を襲った。
友人たちの声が徐々にかすんでいき、彼はその場に呆然と立ち尽くした。
まるで不穏な何かが彼を見つめているかのようだった。
彼は急いで仲間の元に戻ろうとしたが、方向感覚を失い、トンネルの中で彷徨い始めた。
「ヒロシ!」友人たちの声がどこからか聞こえたが、それは遠くからのように感じた。
ギリギリと音を立てるようにトンネルの壁が近づいて来て、ヒロシは恐怖に包まれた。
目の前に現れた影が彼の視界を奪い、「みる」という言葉が頭の中で反響した。
その影は、過去にトンネルの中で消えた人々の姿だった。
哀しげな表情でヒロシを見つめ、「ここから出てはいけない」と囁く。
しかし、ヒロシは恐れを振り切り、必死に友人の声を頼りに駆け出した。
急に強い光が差し込み、彼はトンネルの出口にたどり着いた。
外に出た瞬間、全身から力が抜け、彼は地面に崩れ落ちた。
友人たちが心配そうに彼を囲んでいて、「本当に大丈夫だったの?」と質問を投げかけてきたが、彼はただ無言でうなずくしかなかった。
その後、ヒロシは何が起きたのか思い出そうとした。
しかし、瞬間的な恐怖とともに、トンネルの中で見た「みる」の光景が彼の頭の中で反響し続けた。
結局、彼はトンネルに入ったことで、何か大切なものを失ってしまったようだった。
村人たちの言葉は正しかった。
「みる」という恐怖が、彼の内面に深く根付いてしまった。
そして、その影は今も彼の背後に付きまとい、時には夢の中で彼を見つめているようだ。
ヒロシの心の中には、もう一度戻りたくないという思いと、あの恐ろしい体験を思い出させるものがいつまでも残り続けた。