看(みる)という名前の彼女は、大学で心理学を学んでいる。
学業の傍ら、心霊スポットを巡る友人たちとの活動を楽しんでいた。
友人の聡(さとし)、美咲(みさき)と共に、彼女はある古びた廃校へ向かうことにした。
その学校は、地元では「見えない人が見える学校」として名を馳せていた。
噂によると、数十年前、学校で不可解な事故が起き、生徒たちが消えてしまったという。
彼らの姿は見えなくなったが、彼らの存在が今も学校の中に留まっていると言われていた。
好奇心旺盛な看たちは、その真相を探るために、薄暗い廊下を歩き始めた。
校舎に足を踏み入れると、冷たい空気が彼女たちを包み込んだ。
蛍光灯はちらちらと点滅し、かすかな音が耳をくすぐる。
見るものすべてが薄暗い影に包まれ、時折、何かが彼女たちの視界の端に映る気配がした。
「ほら、あれを見て!」聡が指を指す。
彼が示したのは、教室の窓。
何か白いものがちらちらと見える。
美咲はその正体を確かめるために近づくが、窓がバタンと閉じる音が響いた。
「誰かいるの?」美咲が恐る恐る声をかけたが、返事はなかった。
ただ、静寂の中に、彼らの心臓の鼓動だけが響いていた。
看は、周囲の異様な気配に気づき、「私たち、少し離れた方がいいかも。」と言った。
しかし、聡は興奮して「このまま進もう。何かあるに違いない!」と、彼女を引き止めた。
彼らはそのまま階段を上がり、二階の廊下に来た。
そこで聡が急に立ち止まり、「あれを見て!」と叫んだ。
遠くの端に小さな子どもが立っているのが見えた。
彼は、白い服を着た少年で、無表情でこちらを見つめていた。
「誰か、あなたの名前は?」看が問いかけても、少年は何も答えなかった。
彼はただじっと見つめ返す。
徐々に冷たい風が校舎を吹き抜け、その場の温度が下がっていく。
美咲が震える声で「もしかして、あの事故に遭った子?」と囁く。
聡は「いや、違う!これは心霊現象として特別なんだ。戻るな!」と言ったが、看は徐々に恐怖で身動きが取れなくなっていった。
「何か来る…感覚がする。」看が言ったその瞬間、廊下の奥から不気味な影が急に現れ、少年の後ろからゆっくりと近づいてきた。
背の高い姿が、ゆらりゆらりと動いているのが見えた。
それは白いワンピースを着た女の子で、顔は見えなかった。
「逃げよう!」美咲が叫び、三人はその場から一目散に走り出した。
急に教室のドアがばたんと音を立てて閉まり、血の気が引いた。
外に出ようとしたが、廊下の両側のドアはすべて閉じられていた。
まるで誰かが彼らを閉じ込めようとしているかのようだった。
看は、耳の奥で「出て行け」とささやく声が聞こえ、自分も一緒に消えてしまう恐怖に襲われた。
聡と美咲も必死にドアを叩きながら叫び続ける。
「誰か助けて!」しかし、返事はなかった。
その時、少年が再び現れ、その無表情で彼らを見つめた。
彼はゆっくりと指を差し、看に心の中の言葉を投げかけているように見えた。
「私の名前を呼べ」と。
「私の名前は…!」瞬間、看の頭の中に閃いた。
彼女は思わずその名前を叫んだ。
「まゆみ!まゆみ!」その声が響くと、影が一瞬止まり、廊下の雰囲気が緩和した。
「出て行け、助けて!」看の叫びに反応して、ドアがパッと開いた。
彼らは迷わず校舎から飛び出し、外の空気を求めて逃げた。
夜の空を見上げたとき、彼女たちの背後からは、淡い白い光が悪夢のように押し寄せてくる音が響いた。
校舎の前で立ち尽くす中、看はふと振り返り、心に決めた。
「彼らの名前を忘れない。」そう心に刻み込むことで、彼女たちは恐怖の記憶を背負って、また明日へと進んでいくのだろう。