「裏山の光、引き寄せられし者たち」

深い山中にひっそりと佇む舎(や)の中、ある師が独り静かに暮らしていた。
彼の名は田中。
かつては名のある僧侶だったが、時が経つと共に彼の名は忘れ去られ、人々からも疎まれる存在となっていた。
田中は、知識と経験を求めに訪れる若者たちを教え、彼らに神秘的な力や真理を伝えることに喜びを見出していた。

ある日のこと、村から一人の弟子が田中を訪ねてきた。
彼の名は亜紀。
きらめく瞳を持つ若い女性で、田中の教えを受けることに情熱を抱いていた。
亜紀は田中にとって数少ない舎の外との繋がりであり、彼女が来るたびに舎は生気を取り戻していた。

その晩、亜紀は田中に不思議な話を持ちかけた。
「師匠、村の外れにある裏山に、光が出る場所があると聞きました。その光は、まるで亡霊のように人を引き寄せるそうです。行ってみませんか?」田中は少し考えた後、言った。
「力を求める者が、その光に近づけば、何かを得ることができるかもしれない。しかし、壊れたものを融通する力もまた、恐れなければならない。」

好奇心に駆られ、二人は裏山へと向かうことにした。
道中、田中は言った。
「気をつけるんだ。光に惹かれるのは良いが、そこには裏の真実が存在するかもしれない。それを理解せずに進む者には、厳しい試練が待っているだろう。」

やがて薄暗い森を抜け、二人は光に包まれた空間にたどり着いた。
そこには、青白い光が立ち込めており、まるで幽霊のように舞っていた。
亜紀はその美しさに魅了され、無意識のうちに光へと近づいていった。
しかし、田中は彼女を引き留めた。
「まだ近づくな。光には近づく者を奪う力がある。」

だが、亜紀は田中の言葉に耳を傾けず、光の中に手を伸ばす。
すると、急に光が強くなり、彼女の周囲に冷たい風が吹き荒れた。
田中は思わず叫んだ。
「亜紀、戻れ!」が、その瞬間にはすでに遅かった。
亜紀は光に飲み込まれ、彼女の姿はあっという間に消え去った。

田中は恐れおののき、必死にその場を離れようとした。
しかし、一瞬、彼もまた光に引き寄せられ、自身の意識が薄れていくのを感じた。
そのとき、彼の中に浮かび上がってきたのは、彼が過去に弟子たちに教えてきた「裏」の真理だった。
それは、すべての存在には壊れた部分があり、それを受け入れることが真の力になるという教えであった。

目の前に現れたのは、亜紀の幻影だった。
彼女は悲しげな顔をしながら笑っていた。
「私を助けて、師匠。」彼女の言葉が田中の心に響いた。
光に包まれたままの亜紀は、かつての純粋さを失った魂を表していた。

田中は気づいた。
これまでの教えに背を向けてはならないと。
「亜紀、裏の真実を忘れてはいけない。」田中は自身の力を振り絞り、亜紀の幻影に向かって手を差し伸べた。
「壊れたものを受け入れ、それを再生させる力は、私の中にある。」

その瞬間、田中の周囲の光が一瞬消え、亜紀の幻影が揺らいだ。
彼女に手を伸ばすことで、彼は自身の過去の失敗や教えを解放することができた。
光は再び彼を包み込み、今度は亜紀の姿を護るかのように、双方は一つになった。

やがて光が消え去り、二人は舎の庭に立っていた。
亜紀の姿は元のままだが、彼女の瞳にはどこか深い知恵が宿っていた。
田中も、以前のように孤独ではなくなっていた。
彼らは互いに手を取り合い、裏の真実を共に歩む決意を固めた。
その時から、田中の舎は再び人々に訪ねられる場所になっていった。
興味を抱く者たちが恐れを抱きながらも、光に導かれるようにやって来るのだ。

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