「裏の神社と忘れられた祈り」

ある静かな田舎町に、町の外れに位置する古びた神社があった。
そこは昔からの言い伝えが多く、特に「裏の神様」と呼ばれる存在が恐れられていた。
人々は神社に近づくことを避け、その裏で何が起こっているのかを知る由もなかった。

主人公の佐藤裕樹は、好奇心旺盛な19歳の青年だった。
ある日、友人とともに神社の噂話をしていると、「裏の神様」の存在に興味を持った。
裕樹は、この神社に足を運んでみることを決意した。
友人たちは警告をしたが、裕樹は聞く耳を持たなかった。

彼は夜になって神社に向かった。
月明かりに照らされた神社の境内は、静寂に包まれた異様な空気が漂っていた。
裕樹は少しずつ進み、正面の鳥居をくぐった。
その瞬間、何かが彼の心をざわつかせたが、引き返すことはしなかった。

神社の中は薄暗く、古いお札やお供え物が埃を被っていた。
裕樹は背筋を伸ばし、神社の奥へと進んでいく。
そこで彼は、大きな石の祠を見つけた。
その祠には、「失ったものを返してほしい者は、裏の神様に祈れ」と書かれた札があった。

裕樹の心には以前から失ってしまったものがあった。
それは、幼少期の親友である美咲だ。
美咲は数年前、事故で亡くなってしまった。
一緒に遊んだ楽しい思い出は今でも彼の心に深く刻まれている。
このままではいけないと思った裕樹は、裏の神様に祈ることにした。

「裏の神様、どうか美咲を戻してください」と、声を震わせながら祈った。
しかし、何も変わることはなかった。
裕樹は不安になり、その場を離れようとしたが、何かが彼の心を引き止めた。

その瞬間、背後から誰かの声が聞こえた。
「裕樹、私だよ。」振り返ると、そこには美咲の姿があった。
裕樹は驚きと喜びで心がいっぱいになったが、彼女の顔はどこか冷たく、笑顔を作ろうとしているのに、その目には悲しみが宿っていた。

「本当に君か?」裕樹は問いかけた。

美咲はゆっくりと頷いた。
「私が戻ってきたのは、あなたの願いのおかげ。でも、私にはあなたの助けが必要なの。」

それから美咲は、裕樹の手を取った。
「私をここから解放してほしい。あなたの願いによって、私は裏の神様のもとに閉じ込められてしまった。失ったものは、戻ってくるわけじゃないの。だから、お願い、助けて。」

裕樹は状況を理解し始めた。
彼はただ美咲を戻したい一心で祈ったが、裏の神様の力は、彼女を裏の世界に閉じ込めてしまったのだ。
裕樹は心に恐ろしい予感が広がった。
「どうすればいいの?」

「私を忘れないで。いつでも私のことを思い出して。それが私を救う道になるかもしれない。」美咲は言った。
その言葉を手がかりに、裕樹は彼女を解放する方法を探ろうとした。

しかし、その時、神社の雰囲気が一変した。
薄暗い空間が急にざわめき、彼の周りで影が揺らめいた。
裕樹は恐怖に襲われ、後ずさりした。
美咲の姿がだんだんと薄れていく。
彼女は必死に裕樹に手を伸ばすが、その手は空気に吸い込まれて消えていく。

「裕樹、忘れないで……助けて……」その声は、彼の心に深い後悔をもたらした。

裕樹はあわてて逃げようとしたが、神社から出られなかった。
暗闇の中で耳の奥に美咲の声が響き続けた。
彼女を救うための方法も、彼の心に残されたのはその言葉だけだった。

その後、裕樹は町の人々が語る「裏の神様」の話を耳にしながら、ずっと美咲を忘れることができなかった。
彼は夜の神社を訪れるたびに、彼女の声を聞くことを期待していたが、ただ空しい静寂だけが返ってくるのだった。

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