「行跡の神主」

ある日の夜、浩一は友人たちと共に静かな海辺の集落に足を運んだ。
彼らの目的は、夏休みの思い出を作ることだったが、特に観光名所もないこの小さな村について、浩一の中には不安が広がっていた。

村には「行跡(おいあと)」と呼ばれる遺跡があり、昔から霊的な出来事が多発しているという噂が立っていた。
しかし、彼らはその話を軽視し、興味本位でその場所を訪れることに決めた。
始まりの夜、仲間たちは浜辺の近くの民宿に泊まり、次の日の散策の計画を立てていた。

すると一人の友人、裕也がふとスマートフォンで行跡について調べ始めた。
「ここって、本当に不気味な話が多いな。特に埋められた死体の跡があるとか…」と彼は言った。
仲間たちはその話には興味がある反面、嫌悪感も覚えていたが、大半は無礼にも笑ってその話題を軽視した。

「でも、行跡に行ってみる価値はあるかもな」と心のどこかで感じていた浩一は、友人たちを煽るように「明日、絶対に行こう」と宣言した。
結局、怖がりながらも仲間たちは行跡を訪れることになった。
翌朝、畏れを抱きつつも彼らはその場所へと向かった。

行跡に着くと、周囲は鳥の鳴き声ひとつしない静けさに包まれていた。
皆が感じていた不安が、次第に現実のものとなっていくようだった。
草木が生い茂る中、かつてあった神社の跡地が見えた。
そしてその中央には、石組みの祭壇があった。
何かに引き寄せられるように、浩一はその祭壇に近づいていった。

「こんなところで何があったんだろう?」浩一が呟くと、裕也が「もしかして、ここで祀られていた霊が続いているのかもな」と冗談交じりに言った。
しかし、その言葉が響いた瞬間、仲間たちの間に今まで感じたことのない緊迫感が走った。

すると、突然風が吹き荒れ、森の中から冷たいささやき声が聞こえてきた。
「誰が来たのか……」その瞬間、仲間たちは呆然とし、目の前の祭壇を見つめた。
浩一は心臓が高鳴り、後ろにいる友人たちの顔を見ることができなかった。
その時、彼の目の前に何かが現れた。

それはかつての神主の姿だった。
青白い光を放つその姿は、浩一たちが禁忌を犯したことに対する警告のようだった。
「お前たちは、踏み入れてはいけない行跡を踏み外した」と彼は厳しい口調で言った。
仲間たちは恐怖に震え、立ち尽くし、動けなかった。

浩一は思わず友人たちに「帰ろう!」と叫んだ。
しかし、仲間たちの動きが鈍く、まるでその場に縛られているように思えた。
すると、神主の姿はさらに近づき、目を真っ赤に光らせて浩一に向かってきた。
「この場を離れよ!」声が響き渡る。

浩一は必死に仲間たちを引っ張り、逃げ出すことを決意した。
彼らは『行跡』を後にし、集落に戻ったが、心の中には恐怖が残った。
その夜、仲間たちはそれぞれの部屋に戻って行ったが、浩一はどうしても眠れなかった。
神主の言葉が耳から離れず、自分たちが何をしたのかを問われているようで、心が締め付けられる感覚に襲われていた。

翌日、彼は仲間たちを集め、昨晩の出来事を話すことにした。
しかし、話し始めると、彼の言葉を聞いていた友人たちの表情が次第に青ざめていく。
すると、裕也が「目が覚めているのは、お前だけだ」と言い放った。
浩一はその言葉の意味を理解する前に、友人たちの姿が次々と変わり始めた。

彼らの顔が無表情になり、まるで神主に取り込まれたかのようだった。
浩一は絶叫し、逃げようとしたが、彼の体もまた動かなくなっていった。
結局、浩一は恐怖のあまり気を失い、気がつくと一人ぼっちで行跡に立っていた。

それ以来、浩一は村の者たちから姿を消し、行跡にまつわる恐怖の存在として語られることになった。
彼の行跡を知る者は、決して近づくことはなかった。
村には、今も浩一の姿が消えたまま、その謎を解く者は現れないのだった。

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