「血塗られた笑い」

原の村には一つの神社があり、その周辺は古くから「血塗られた土地」として語り継がれていた。
村人たちはその場所に近づくことを避け、特に夜の訪問は命がけとさえ豪語していた。

その村に住む佐藤清は、友人たちと共に肝試しをすることを決めた。
皆が恐れて避ける場所に自分たちが挑む姿を見せることで、自分たちの勇気を証明しようとしたのだ。
彼は血の伝説を好奇心で追求し、友人たちは清に引き込まれる形でそれに賛同した。

肝試しの当日、彼らは日が沈むと同時に神社のある原へ足を運んだ。
心臓が高鳴り、言いようのない緊張感が漂っていた。
清は冷静でありながら、その緊張感を楽しむような目をしていた。
友人たちの手を引き、暗闇の中を進む。

神社に着くと、清は周囲を見渡した。
満月の光が神社を薄明るく照らし出していたが、木々の影が生き物のように揺れ動き、まるで彼らを嘲笑っているかのようだった。
そこで清は、友人たちに言った。
「ここに伝わる血の噂を知っているか? 村人が生け贄として捧げられ、神社の地下に封じられたという伝説だ。」

友人たちは一瞬怯えたが、清のその言葉に興味を抱き、神社の奥へと進むことを決めた。
古ぼけた社殿の中には、古い祭具や少し濡れた土の床が広がっていた。
静寂の中、何かが彼らを見つめているような感覚が拭えなかった。

清はその場をさらに調査しようと、社殿の隅に散乱している古い文献を手に取った。
その文献には、かつてこの地で起きた血祭りの儀式が詳細に記されていた。
しかし、清が読み進めるうちに彼の視点が捉えたのは、奇怪な文字が躍動するように書かれている部分だった。
「笑」とは、祭りの際に受けた祝福の象徴であった。
しかし、村の人々はその「笑」を恐れていた。
血の儀式の後、何かが悪化し、この地に不吉な影をもたらしたのだ。

清は興奮を覚え、友人たちにその情報を伝えた。
しかし、彼がそう言った瞬間、友人たちの表情が曇った。
突然、暗闇から低い笑い声が響き渡った。
彼らはその声の正体を探ろうとしたが、どこからするのか分からない。

「だ、誰かいるのか?」清が声をかけると、さらに笑い声が続いた。
「その声は、かつてこの地で悪行を働いた者たちの声だ。」不気味な響きに彼は恐れを感じたが、好奇心に駆られてその声がする方向へ進んだ。

その先には小さな池があり、その水面に無数の血のような赤が浮かんでいた。
清は思わず足を止めた。
まるで彼を引き寄せるように、池から赤い滴が流れ出し、彼の足元に絡みつく。
「見て、清…」友人が呟いたが、その声は乾ききったものだった。

清はそっと池の水を手で掬い上げ、その赤い液体を見つめた。
そのとき、突然笑い声が大きくなり、彼の周囲が真っ暗になった。
背骨を這うような寒気が彼を襲い、視界がぐらぐら揺れ始めた。

「もう戻れない…」友人の一人が小声で言うと、その瞬間、清の目の前に影が現れた。
それは、血の付いた奇怪な衣を纏った何かだった。
影は静かに彼に近づき、彼はその直視することができなかった。
しかし、その影が口を開いたとき、彼は震え上がった。
「笑いの準備ができたか?」

清は心の中で叫んだ。
怖れから来る絶望感が彼の頭を駆け巡った。
友人たちが次々とその影に飲み込まれていく中で、彼は逃げようとしたが、足が動かなかった。
身動きが取れず、彼はただ恐怖に怯え、薄暗い神社の中で孤立していた。
「不条理な笑みが私を待っている…」

夜が明けるまで地獄のような時間が続き、清が目を覚ましたとき、彼は神社の境内に横たわっていた。
友人たちは消えており、彼の身体には赤い液体のような物が乾ききっていた。
彼の心に恐怖が深く刻み込まれ、彼はもうこの土地から逃げ出せないことを悟った。
村の人々が恐れたのは、笑い声と共に流れる血の運命であり、清は今そこに完全に取り込まれていることを自覚したのだった。

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