「血の運命に囚われて」

彼の名は健太。
普通の大学生として、日々の忙しさに追われていた。
だが、彼には誰にも言えない秘密があった。
それは、彼が幼少期に体験した一件の怪異だった。
彼が十歳の頃、家族と訪れた神社での出来事が今も鮮明に残っている。

その神社は、地元で古くから信仰されており、奥深い森の奥にひっそりと佇んでいた。
訪れた当時は穏やかな陽射しが差し込んでいたが、その日はなぜか不気味な空気が漂っていた。
健太は、好奇心にかられ、裏の道を通って神社に戻ることにした。

その道を辿ると、突然周囲の空気が変わった。
薄暗く、奇妙な静けさが漂う。
その時、彼の目に映ったのは、地面にゆっくりと広がっていく赤い染みだった。
それは血のように見え、彼は胸騒ぎを覚えた。
動揺しながらも健太は、その血の先を見つめた。
そこには、見知らぬ神像が立っているのが見えた。

神像は無表情で、異様な威圧感を放っていた。
周囲には何もなく、ただ神像だけが異質な存在感を持っていた。
彼は不安を感じ、すぐにその場から離れた。
帰り道、彼の頭の中にその神像と血の染みが消えずに残った。

時は流れ、健太は大学生になる。
その記憶は封じ込められたはずだった。
しかし、学業や友情、恋愛といった日常の中でも、ほんの小さなきっかけであの神社の出来事を思い出してしまうことがあった。
心の奥に隠していたはずの恐怖が、時折彼を襲った。
彼はそれを「運命の一部」として受け入れることにした。

ある晩、彼は友人たちと飲みに出かけた。
騒ぎ疲れ、気持ちが高ぶった勢いで、「裏にある神社に行こう」と言い出したのだ。
友人たちは乗り気ではなかったが、酔った勢いで彼について行くことになった。
幽霊や怪談を信じない彼らは、健太を冗談混じりでからかった。

到着した神社は、思いのほか静かで、夜空に星が美しく輝いていた。
しかし、健太は背筋に冷たいものを感じていた。
彼の心の奥底にあった恐怖が、再び蘇ってきた。
友人たちは無邪気に神社周辺を探索していたが、健太は神社の裏に向かうのをためらい、ただ立ち尽くしていた。

その時、友人の一人が神像の近くに立っていた。
「健太、ここにいるぞ!」と叫んだ。
彼の声が響くと、風が強く吹き抜けた。
その瞬間、健太は再び血の染みを思い出した。
彼はその体験が決して偶然ではないことを感じ始めていた。
「運命が決まってしまっている」と。

友人は冗談のつもりで神像を触ろうとしたが、その瞬間、地面が震え、彼の手が血で染まった。
健太は呆然とし、恐怖で叫び声を上げた。
周囲が一瞬暗くなり、声が消えると、神像の目が血のような光を放ち、周りに異様な気配が漂った。

他の友人たちも驚いて逃げ出し、健太もその場を離れようとしたが、足がすくみ動けなかった。
彼の視界の片隅に、若い女性が現れ、悲しげな表情で彼を見つめていた。
その目は無言の訴えをしているようだった。

「助けて…」彼女の声が風に乗って耳に届いた。
まるで一緒にいるかのような錯覚に、健太は心が締め付けられる思いだった。
逃げなければと思いつつ、彼女の存在に引き寄せられ、動けない。
彼は思わず彼女に手を伸ばした。

その瞬間、周囲の空気が一変し、赤い血の印が地面に広がった。
彼女の姿が消え、森の中から低く不気味な囁きが響き渡った。
「運命は決まった…ここに留まれ…」

健太は恐怖にあえぎながら、裏の神社の真実に気付いてしまった。
彼の運命は、その瞬間に何かしらの力によって決まってしまったのだ。
彼は三日後に行方不明になる運命を抱えて帰って行った。
血の呪いに縛られ、決して逃げることができないのだと。

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