陽が落ちた町の外れにある廃工場、かつては忙しい音で賑わっていたが、今はただ静寂に包まれていた。
その場所には、長い間人々が語らずにいた伝説があった。
それは、かつて製造された製品に使われた「血」をテーマにした、怨念の話であった。
ある日、青年の直樹は友人たちとその廃工場探検を決めた。
彼らは噂として聞き伝えられた「目の怪談」を確かめに行くつもりだった。
直樹は他の友人とは少し違った興味を持っていて、そうした心霊現象についての知識を深めることが好きだった。
工場に着くと、何もかもが朽ち果て、さびれた風景が広がっていた。
彼らは興奮しながらも、不安な気持ちが漂い始めた。
その工場の奥には、昔の製品の残骸が山となり、不気味に彼らを見つめ返しているように感じた。
特に、床にうずくまっている血のような赤い染みが目に留まった。
友人たちがそこから離れようとすると、直樹はその血染めの場所に興味を持ち、何が起こったのか分からないまま近づいて行った。
その瞬間、彼の目の前に突然、一つの光が現れた。
目だった。
通り過ぎることのできないほど強烈で、冷たいような目だった。
直樹はその視線に引き込まれるように感じ、全身に冷たい汗が流れた。
彼の心の奥に何かがよみがえり、その光が彼を見つめ続けた。
目の持ち主は、彼が見たこともないような無表情を浮かべていた。
それに呑み込まれた直樹は、急に過去の記憶が頭の中を駆け巡った。
そして、彼がかつて犯した過ちを思い出した。
彼は、学校でのいじめや、友達を裏切ったこと、それを償うことなく逃げてしまったことを後悔していた。
「私の血が、無駄に流れた。」目の中から声が響いた瞬間、直樹はその恐怖から逃げ出したくなった。
しかし、何かに引き止められ、身動きが取れなかった。
彼の心の中に誓ったはずの「償い」という言葉が、今は彼を捕らえていた。
友人たちの声が遠くでかすかに聞こえ、焦りが増していく。
目の持ち主は、直樹に迫りながら言った。
「お前はその罪を忘れ、ここに来るべきでなかった。全てはお前のせいだ。」その言葉が彼の心の中に突き刺さり、彼は忌まわしい記憶を再体験した。
直樹は耐えきれずに目を閉じた。
今の自分にできることは何か、過去の行いを悔い、どうにかしてその記憶を清めることだった。
それでも、どこからか追い詰められる感覚が続き、彼の心はさらに苦しくなっていく。
やがて、直樹は後ろを振り返り、友人たちに助けを求めようとした。
しかし、屍のように静かで、彼は閉じ込められているように感じた。
目が彼を見つめる中、直樹は思い浮かべた過去の行いを全て打ち明け、許しを乞うことができれば、何か変わるかもしれないと感じた。
「申し訳ありませんでした…私は犯した過ちを思い出させてしまった、そしてその償いをしたいと思う。」彼は心の底から声を上げた。
その言葉が響いた瞬間、目は彼から外れ、力を失ったように消え去った。
冷たい風が吹き抜ける中、直樹は目を開けた。
光は消え、周囲には静けさが戻っていた。
彼は全てを思い出したが、自身の犯した過ちは今も消えないことを知っていた。
しかし、彼は少しだけ楽になった気がした。
悔いは残ったが、償うことができる道があると信じたのだ。
友人たちとともにその場所を後にすると、彼は心の中で誓った。
「もう一度はやらない。今度こそ、心から謝ろう。」彼は自分の過去を抱えながらも、新しい未来へ向かって歩き始めた。
